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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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竹千代君と百日咳

「ありがとうございます。では私は一時 部屋に戻り

 お局様にご報告して参ります。お粥が出来上がる頃

 また参りますから」と 言いおいて急ぎ部屋に戻った。

とは言え二の丸と長局はだいぶ離れている。

付き添うおよの共々 廊下を小走りに歩きながら

不思議な縁だと今更ながらに思う。お楽といい

このおよのといい 生きてきた時代の隔たりはあっても

こうして仲良く暮らして行ける。家光とてそうだった。

家光に愛されているしそれは幸せなのだろうが、

その家光とお楽の子の病気を心配している。彼からも

竹千代とお楽の事をよろしく頼む等 言われた事も

あった。お楽は家光自身の希望により大奥に戻る事無く

竹千代の養育のみ、心血を注ぐようにとのお言葉だった。

女としては淋しい事だが、かえってよかったのかも

知れない。世継ぎの生母になった事で、お玉達はお楽に

頭が上がらなくなったし、家光も竹千代に会いに

しばしば二の丸に足を運ぶ。大奥にいた頃より身近に

言葉を交わす事も多くなったからだった。

チサは部屋に戻ると自分用の長持ちの中から

ハンドバッグを取りだし、中に入っていた三粒の

カプセルを出しその中の一つを注意深く懐紙の上に

あけ3等分した。それを小さくたたんで帯の間に

隠してから局に二の丸の様子を伝えた。

「若君様は咳が止まらず、お苦しそうでお食事も

 あまり取られない様子 お楽の方様のご心痛

 いかばかりかと」 「そうであろう。こなたが朝に

参った時もそうであった。お医師の咳止めは効いて

 いないのであろうか。上様も事のほかご心痛じゃ」

「私 お方様より若君のお食事の時 手伝いをと

 頼まれました」 「それならばすぐにでも行くがいい

わらわは今日 所用があってもう行けぬ。チサ代わりに

 お楽に付き添って下され」 「かしこまりました」と

いう事でチサは折り返し二の丸に駆けつけた。

そこではちょうどお粥が出来上がり、チサが来るのを

待っていた。「おチサ様 これでよろしいでしょうか」

佐和が別皿に取り分けたお粥を差し出す。

チサは食べてみて頷き、竹千代君用の器を取り上げ

それを部屋の外 つまり冷たい廊下に持ち出した。

「あれ おチサ様 何を」 慌てる佐和と医師達

「冷ますだけです。熱がある時は温かい物より

 冷たい方が口当たりが良いと思います」 チサは

お粥を掻き混ぜ 冷ますふりをしながら素早く薬を

混ぜ込み、十分に冷ましてから竹千代の側に座った。

その小さな口にお粥をすすめる。「ほ~ら 若君様

美味しいですよ~。ア~ン ほらお口を開けて」と

自分もア~ンと大きく口を開けると、若君もつられて

口を開けるすかさずそこへお粥 そうするとヒンヤリ

したお粥が美味しかったのか続いてすぐ ア~ンと

催促 見ていたお楽達や医師もびっくりした。

そうしてすぐに器を空にしてしまう。

「まあ~ このように若君が召し上がるなんて」と

佐和は感心する事しきり、チサは「熱がある時は

冷たい物の方が口に入りやすいのです。身体を温める

 事も必要ですが食べやすくしてあげる事も必要

 なのですよ」とにっこり


続く。

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