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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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春日局とチサ

「ですからお局様 北の御部屋から知らせがあれば

 上様がお出ましになるより早く、その場に居合わせて

 頂きたいのです。お蘭様をしかと見張っていて下さる

 ようお願いします。何事も起こらねば幸い 私の

 たわ言で済まされましょう。その時はどんなお叱りも

 お受け致しますが、もし 大事があればお蘭様も

 和子様もおかわいそうです」と 必死になって頼む

チサを見れば局も否とは言い難い。「たわ言とは思う

なれど一応 心に留めておくゆえ心配いたすな」と

優しく言って聞かす。 本来なら家光の愛を争うべき

立場のお蘭の身体を気づかうチサが、理解しがたい所

だが悪い気はしない。ましてチサの言った事が本当に

起これば一大事である。町人の娘ではあったが局自身が

目を止め 手ほどきをして家光の側女に育て上げた

世話親としても、責任も愛情もある。そんな事があった

次の日の夜半だった。お蘭に陣痛が始まったとの知らせが

お蘭付きの侍女 お松が言いに来た。お松は他の部屋の

人達を起こさぬようにと気遣いながらも頬を紅潮させて

産婆からの言づてを伝える。

「産婆の申しますには、ご陣痛は今始まりましたばかりで

 ございますれば、ご出生は早くても明朝辺りかとの

 事でございました」 「さようか 初産は長びくもの

じゃと申しても、ここでのうのうと寝ている気にもなれぬ

 こなたはこれから北の御部屋に参るから、そちは早う

 お蘭の元へ」と お蘭お気に入りの侍女を帰らせた。

待ち兼ねた出産 局は気負って立ち上がる。

その頃には別の部屋で寝ていたチサや侍女 部屋子達も

みな目覚めていて何となく局の前に集まって来る。

「他の部屋への気遣いもある。みな静かにして騒ぎ立てる

 では無いぞ。こなたはお蘭の付き添いに参る」と

皆を押さえて着替えはじめた。チサはかいがいしく

「この時刻 外の廊下は冷えきっておりましょう。

 足袋は2枚重ねてお履き下さいませ。お召し物も

 少し厚手の物を」と 身体をいたわって細かく気を

使い局を喜ばせた。「お蘭様に 私達みなが付いている

からと、、 みなここで無事ご出産を祈り続けていると

 お伝え下さいませ」と 部屋を出る間際にそっと耳に

口を寄せて「昨日 お話しました事 よろしくお願い

致します」 念を押されて北の産室へ急いだ。

部屋に着くと産婦のお蘭は何回目かの陣痛に身をよじって

いた。まだ始まったばかりなので陣痛の間隔は短くはない。

ひと息つくと横になって休む。局は側に寄ってお蘭の

手をしっかりと握りしめ 「気を丈夫に持って元気な

御個を産むのじゃぞ。こなたもここでご安産を神仏に

 願うゆえ」と 元気づけるとお蘭は微かに微笑み

「ありがとうございます」 小さな頼りなさげな声で答える。

その力無さに不安を覚えた局は 「これ しっかり致せ

女の子は誰でも通る道じゃ そのような気弱でどうする

 せめてチサくらい気強くなれ」 「おチサ様」 「そうじゃ

そちの身を案じて今も、寝もやらず祈っておるぞ。

 昨日もいろいろとそちの話しをしておったところじゃ

 チサは必ず」 男子ご出生と言いかけて慌てて口をつぐむ。

しかしそれを聞いたお蘭は嬉しそうに顔を輝かせ

「おチサ様がそのように私のことを、、嬉しい 嬉しゅう

 ございます」と 涙ぐみながらも力強い声

「私は一人ではございませぬな」 「おお そうじゃ」

つい 局も気負って答えた。


続く。

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