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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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春日局とチサ

「伊豆殿には隠し事はできませぬな。しかしこれは

 本当に上様はご存知なき事 実はこなたの部屋で

 預かりし中臈チサ」 「昨年より上様のご寵愛めでたき

お方でござるな」 「そうじゃ 表にても評判か」

「他の者は知らず ご幼少のおりからお側近く務め

 ます我等には時々 そのお方のことをおもらしに

 なる」 「なに まことか」 そんなに上様の心を

惑わしているのかと局の顔は険しくなる。

「いや お気になさるような事ではござらぬ。主に

 政治向きの事でござる」 「それはまたどのような」

初耳だった。「例えば 大名と国元の事についてで

ござるが、今は国によってまちまちな年貢米の

 取り立てを一律にしてはどうかとのお話しがあった

 ようでございます。そうせねば厳しく年貢を取り立てる

 藩主の国の百姓は、自分で作った米を食べることも

 できずにいるのに、反対に取り立ての緩やかな国や

 豊かな土地がある国では田畑を大切せず、余った米を

 商人等に安く売りさばき、不当に金を儲けていると

 言うような事ですが、我等 この話しを聞いて誠に

 筋の通った意見だとひそかに検討中でござる」

「あのチサめが女子の身でご政道に口を挟むなど

 たいそれた事を」 知らなかった。側女らしくと

今日までの厳しい指導も役に立っていなかったのかと

口惜しい。だが伊豆守は 「上様ははっきりと

そう申されるのではありませぬ。ただ時おりおチサ様の

 話しが出たついでにそのような事を申されますので

 おそらくはそのお方の口添えがあってのことと推察

 されます。しかしお局様 これは上様にとっても

 良い事ではありませんか。女子といえども正しい意見は

 正しい意見でござる。これが私利私欲につながるような

 間違ったものでなければ我等 耳を傾けることが必要と

 思われます。もしや 天下万民の為に成らぬ事なら

 上様が何と申されようとも、お側に仕えしこの伊豆

 はじめ老中の方々が構えてお留め致します」と 彼は

チサを一人の人間として評価してくれていた。

ただの化粧臭いだけの女ではなく人として認めている。

そうして正しい意見は正しいと言い切って、この時代の

多くの男達が女 子供のゆう事等と頭から馬鹿に

しないでいてくれたのは喜ばしい。局が黙って

しまったので「その おチサ様がどうかなさいましたか」

と話しやすいように水を向ける。


続く。


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