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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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春日局とチサ

しかしそれには局もいち早く気づいた。

(あのチサのことじゃ こなたが駄目なら上様に直に

言上するに違いない) あんなたわ言をお耳に入れる

等とんでもない事じゃ いっそ病気という事にして

お閨に上げぬようにしようか。いや そうすれば

上様はまたきっと長局に見舞いに来られるだろう。

そうすればすぐバレてしまう。他にも何か良い手立てが

ないかいろいろ思い付くまま考えてみたが、どれも

これも成功しそうにもない。近頃はまた以前にも増して

家光の寵愛はチサに注がれていると局は感じていた。

1日でも彼女の姿が見えぬと 「チサはどうした」と

必ずお尋ねがある。時々他の女もお召しになるが

それさえ チサの勧めを受けてと言うよりは、チサに

対する女達の風当たりを避けるためとしか思えない。

そんなチサを上様に近づけないようにするのは不可能

だった。と すれば残る手立ては一つ 伊豆守に十分に

調べたと言う念書でも一筆書いてもらって信用させる

よりない。ため息を付くような思いで局は、その足で

中奥に伊豆守を訪ねた。人払いをし二人切りになって

から「先日 お聞きした乳人の件はもう本決まりに

 なりましたか」と 問うた。「はい 5日後に差し紙が

参るようになろうと思いますが、お局様には何か」

老中といえども伊豆守は家光が幼少の時よりお小姓勤め

常に乳母たる春日局の指揮下にあったので、今でも頭が

上がらない。「牧野家の家臣で矢島なにがしの妻女と

 聞いたが」 「馬廻り役を務める矢島治太夫の妻女で

ございますが、何かご不審でも」 「うむ いや」局は

言い難そうにしていたが 「これは婆の勝手な頼みじゃが

もう一度 その女 詳しく調べ直しては下さらんかのう」

思い切って言う。「それはまた 何ゆえに」 「なに面倒で

あれば何か書き付けでも 十分に検討したと言う書でも

 あれば事足りるのじゃが」 「お局様 それはもしや

上様が」 「いや 上様はご存知なき事 こなたの一存じゃ」

局は慌てて言った。「なれば 何ゆえに書き付けをご所望で

 ござる。お局様だけのお気掛かりなら私めの言葉一つで

 足りる時々思われますが」と こう言われては局も本音を

言わざるをえなかった。


続く。

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