春日局とチサ
その甲斐があったかどうか局は5日目には職場復帰し
やっと女達は安心した。そんな事があってその冬も
すぎ 晩春のある日 春日局は2.3日の休みを取った。
と 言っても病気ではないので自邸には戻らず、
一切の仕事を和島達に任せて、チサを相手に茶を立て
菓子をつまみながらのんびりとした時間を過ごす。
あの時以来 局はチサの言い付けを守り塩味を控え
寒暖の差にも気をつけて、時々は今日のようにゆっくり
休むことにしている。その為かこの頃は頭痛もなくなり
耳鳴りもしなくなって来ていた。
「今年の春は暖かい日々であった。ご政道もつつがなく
過ぎておるし上様の御代は栄えてゆく」
「初夏には 4.5.6と6月には家綱様がご誕生と」
何げなく言ったチサの言葉に局はびっくり
「 なにっ 今何と申した」 問われてチサも気づいた。
(そうか これから先の事 この人達に分かるはず
はない) 歴史を知っている我々ならともかく局には
その後 将軍家が十五代まで続くという事は分からない。
「いえ あの 何も きっと若君でございますよ」
チサも説明に困ってしどろもどろ (あ~ 困ったなぁ
だけど家綱の生母は確かお楽の方じゃなかったっけ
お蘭様とは名前が違うけど、、、千代姫の他に
女の子がいたのかなぁ) チサはまだ側女がお腹様に
なると名が変わる場合がある事を知らなかった。
「きっと 若君がお生まれです。私の占いは良く当たる
のですから」と 局の気を変える為占いのせいにして
しまう。「そちは占いをするのか」 「はい 少しだけ
そうなればお蘭様もいよいよ御生母 お蘭の方に
なられるのですね」 「そうとは限らぬ。御上より
新たに御名を賜れば変わる」 「ええっ ではお楽の
方になるのですか」 「それはまだ分からぬ。そちは
決まってもいない事をどうして言うのじゃ」と
またまた 変な事を言い出したチサを気味悪そうに
見つめる。(そうか 名前が変わるのか という事は
確かお楽の方は、、 もし 歴史が真実なら家綱を
産んだ後 家光に平伏して ああ~ 人事不省に)
ここまで思い出して息を呑む。(でも もし そうよ)
これはチサの力で止められるかも知れない。前もって
誰かに そう 局に注意しておけば良いのだから、、
御生母になっても一生 半病人では仲のいいお蘭様が
かわいそう。それよりその先の事もある。四代将軍
家綱は確か病弱で世継ぎを儲けずに死亡 腹違いの弟
綱吉が五代将軍になるはず。そうして綱吉はあの悪名高き
生類憐れみの令の犬公方である。これはいけない
あの悪法で人々は多いに困ってはず死人も出たはず
なんとか阻止しなければ、、、それにはお蘭様も健康に
家綱も丈夫に育てなければ、、、確か乳母になった人も
良くなかった。なんとか言う人 嘘つきの
あっ そうだ。矢島の局 この人には良くない噂が
確かにあったはず。気の強い人で夫の禄高を偽って
中流家庭のように信用させて乳母になってからは
家綱を過保護に育て過ぎる。これも止めさせなければ
ならない) そう考えつくと「お局様 お蘭様御出産と
なれば乳母が付くのでしょうね」と 切り出していた。
続く。