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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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春日局とチサ

「チサ その眼はどうした」 「えっ あの いいえ」

チサは問われた意味が分からずどぎまぎした。

昨夜 ろくに寝なかったためチサの両眼は赤く充血して

いたのだった。だが チサ自身も他の誰もが局の事に

夢中で、そんな事に気づいていない。事実 部屋を

出て来る時はそんなに目立つほどではなかったのだが

お鈴廊下に並んでから一段と激しい頭痛と共や眼も

充血して来ていた。「眼の患いか」 「いいえ」 「では

どうした」 「あの~」訳が分からず救いを求めて和島達を

見やる。和島がハッと気づいて 「チサ 眼が」

「えっ 眼がどうか」したのかと首をかしげると梅山と

目があった。チサは救われたように梅山ににじり寄り

「私の眼がどうか致しましたかしげる」と 小声で尋ねた。

「眼がまっ赤じゃ どう致した」と 不安げな梅山「ええっ」

二人がこそこそ話しているとその時 「いったいどうしたと

聞いておる」短気な家光がじれったそうに怒鳴った。

まさにその時 廊下の向こうから小走りに走って来る

かな江の姿 彼女は和島がこっそり呼びに行かせたの

だった。「申し上げます」 「かな江」 驚くチサ

本来 部屋子であるかな江はお目見え以下であったが今は

それを言っていられない。「申うせ」 「はい おチサ様に

おかれましては昨夜 お局様の寝ずの番をなされました。

 そのお疲れが眼に出たものと思われます」

「なにっ 寝ずの番をしたのかそちが」 家光はじめ

和島達も驚いた。「いえ お局様は静かにお休みで

ございましたので、私も良く眠っておりました」と

答えるが、それが嘘であるのはまっ赤に充血した目が語る。

その嘘が分かる家光は、嬉しくなってつい 「春日も

嬉しかろう そちのような孝行者がおっての。

 チサ この後もわしの分までするつもりで尽くして

 やってくれ」と 他の側女を刺激するような事を言って

しまう。チサが畏まって頭を下げるその上に 「しかし

看病疲れでそちが倒れぬように致せ」と いたわりの声を

かけ大満足で仏間に向かう。心ならずもお褒めの言葉を

いただき、家光の分まで孝行してくれ等 たいそうな

事を言われたチサは気が重くなった。これではまた

お玉やお里沙の恨みをかう事になる。お蘭の妊娠で

いっ時 静まっていた妬みの矛先が自分に向かうだろう。

うっとうしい気分で部屋に戻ると和島が来ていて

先程の一件を局に告げていた。

「上様より お言葉があったそうじゃの」と局 「はい

皆様の前でたいそうに言われて困ってしまいました」

「はて 何が困る事でありましょうや。 そなたは

 お局様に良き孝行をなされた。この和島もことのほか

 嬉しく思っているに、、、ましてや上様のお喜びは」

「小さな事を大げさに取られるのが心苦しくてなりません。

 これがお命にかかわるような大事ならともかく

 たったひと晩 お側についていただけの事 それは  

 当たり前の事ではありませんか。たいそうに騒がれては

 お心にもそむくと存じます」と 言うと局は軽く頷いて

「まぁ済んでしまった事は仕方がない。そちの眼が赤く

 なっているのに気づかずにいたのはこなたの手落ち

 お出迎えの前に冷やしておけばよかったものを」と

慰める。


続く。

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