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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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春日局とチサ

局は時々 小さく頷きながらおとなしく聞いていた。

「また 日頃のお心の持ちようも大切でございます。

 あまり気を張り詰めすぎるのは良くありません。

 お悩み事も多い事と察しますが、それに囚われすぎ

 るのもいけません」 「それではまるで世捨て人の

隠居のようじゃな」と 不満気な局 「いいえ 何も

仕事をせずにいるのは反って体に悪うございます。

 私が申しますのは、日頃心を穏やかに持って

 気の張るお仕事もたまには息抜きをなさるように

 お勧めしているのでございます」 「さりとて

こなたは大奥取り締まりの役をおおせ使っている」

「私が思いますのにお局様はあまりにご多忙すぎます。

 もう少しお年寄りの方々を手足に使われて、お局様は

 お目付として采配をおふるいになったらいかがと

 思われます」実際 今いる四人のお年寄りの権限は

事実上 すべて春日局にお伺いを立てて決定している

事が多々あった。局がいかめしい顔をしたまま無言

なので、チサはひと膝すりよって 「お局様のお身体は

ただお局様一人の物で無いことを良くご存知では

 ありませんか。先の梅山様が私に このお部屋人に

 参りますおり 春日局様は上様をお育て申されたお方

 はばかりながら上様の第二の御母君と思ってお仕え

 せよと教わりました。それは大奥の皆が いいえ

 きっと上様ご自身もそう思っていられるに違い

 ありません。その上 お局様は私にも申されました。

 初めてのにお目通りの時 これからはこの春日を母と

 思って何事も相談せよと、、、 なればチサはお局様の

 娘 それにお蘭様のこともございます。どうぞここの

 ところを良くお考えあそばして、私共や上様のお為

 お身体をおいとい下さいませ」と 取りすがらんばかり

聞いている局の胸にじぃ~んと浸みてゆく言葉だった

目頭に熱いものを感じながら静かに 「まこと 初めて

この部屋に参ったおり そう申したのう。さてこなたも

 やんちゃな娘を持ったものよ」と 無理に笑って見せる。

「さようでございます。お局様 下世話にも申して

 おります 老いては子に従え」 「これっ そのように

年寄り扱い致すな」 言って二人は共に笑う。

局は嬉しかった。体がほのぼのと暖められて春の

日だまりにいるような気分だった。チサも初めて触れる

事ができた局の暖かさを感じ、とても嬉しかった。

話す内知らぬ間に時は過ぎて、はや東の空が白み出し

まもなく六つ刻(午前5時)の知らせがあった。

そろそろ大奥の中が目覚める時刻である。

その前のひと時 チサは布団に戻って冷えた身体を

暖めた。その朝 局は良く眠った後なので食欲も

旺盛なのが侍女達を安心させる。


続く。

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