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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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春日局とチサ

そうして日は流れ年の暮は押し迫りやがてチサが

この世界に来て初めての正月を向かえた。

大奥では部屋ごとに注連飾りはせずに、ただ七つ口と

お広敷きの入口にのみ門松を飾る。慌ただしい人々の

動きにも、賑やかに交わし合う年頭の挨拶もチサの

胸には悲しく虚ろにひびく。今 一人雪の舞い散る

縁側に立っていると去年のお正月が思い出されて

胸を塞ぐ。日頃 多忙な父も上座に座りその横には

優しい母が、、、そうして嫁いでいる姉夫婦が二人の

子を連れて転勤先から帰って来ての賑やかな

お屠蘇祝いをする。チサのいない正月をあの人達は

今どうして過ごしているのだろうか。

突然 行方不明になった娘 生死さえ分からず途方に

くれている姿が目に浮かぶ。ワア~と叫び出したく

なるのを堪え、雪の庭に下りて見た。何も 何もない。

誰も 誰もいない。初めてこの世界に来た所

縁伝いに梅山のいる部屋の庭に行ってみる。この庭の奥

こんもり茂った庭木の側にチサは倒れていたのだった。

今 同じ場所に立って見ても何の変わりも無い。

時の空間に放り出された所  何か時間ので裂け目の

ようなものがあるのかと手で探ってみても虚しく空を

切るばかり 何も触るはずも無い。涙が止めどなく

流れて頬を濡らしているが、それさえ今は感じていない。

雪の冷たさ どうしようもない孤独感にさいなまれて

身も心も凍てついていた。この淋しさ 虚しさを

埋めるものは何もなかった 救える者は誰一人いない。

例え 家光がチサを熱愛していても、、、、

その正月も過ぎ、お蘭はめでたく産所である北の御部屋

に移った。そうして寒さも一段と厳しさを増す2月の

ある日 春日局は家光の元に伺うべく中奥へと辿る途中

突然 激しいめまいがしてよろけるようにその場に

座り込んでしまった。付き添っていた侍女の知らせで

慌ただしくお匙を呼びにやる一方 チサもその場に

かけ付けた。「お局様」 見れば局は廊下の手すりに

寄りかかったまま青ざめた顔をしている。

チサがかけ寄ると 「心配致すな。少しめまいがした

だけじゃ みなにあまり騒がぬように申せ」と

力ない声で言った。その姿を見て今 ハッと胸を

突かれたような思いが過ぎった。(ああ お爺ちゃん)

チサは自分が中学生の時 脳卒中で死んだ祖父の事を

思い出したのだ。人一倍 元気者だった祖父が

亡くなる前に良く めまいや立ち眩みが時々すると

言っていた事が今 胸によみがえって来た。

いつか聞いた事がある 脳卒中の発作時はなるべく

動かさない方が良いのだと、、安静にする事が

何よりの薬だと、、、それならばここでバタバタ

してはいけない。局を動かしてはいけないのだと思い

侍女達を押し沈め部屋から、掛け布団を一枚持って

来るように命じた。


続く。

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