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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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過去の世界 初めての冬

そのまま暫く黙って歩いていたが、ふと チサが顔を

上げてにっこりと「あの~お方様にお願いしたい事が

あるのですが」と 少し恥ずかしげに頬を染めながら

言った。「何でしょう。私に叶うことですか」

「はい あの~私 時々 お方様のお部屋に遊びに伺って

 いいでしょうか」 突然のチサの申し出にお万の方はじめ

みなびっくり。お方様は目を丸くなされた。

「私 お方様に憧れているのです。お美しくて博学で

 いらして、その上に歌道も書道も人並み以上に優れて

 いらっしゃると、このおよのも部屋の者達も申して

 おります。お局様もおっしゃいますの 

 私の立ち居振る舞いがあまりに乱れているのを歎いて

 少しはあのお方を見習うたらどうじゃと、、くくく、、」

チサはその時の局のしかめっ面を思い出して笑う。

しかし お万の方の顔は曇る。大奥に入った時から

何事に寄らず面と向かってと言うことはないが、ことさら

敵対視される春日局であった。そんな局が物の例えにせよ

お万の方を見習えなどと言うのであろうか。

もしやこれはチサの作り話では、、、また チサが部屋に

来るのは大歓迎だが、局は何と思うだろうか 局が

世話親となって預かるチサを我が味方に引き入れようと

するかのように取られて痛くもない腹をさぐられるかも

知れない。お方様が黙っているのでチサはがっかりとした

ように 「やはり無理でございましたか。私は粗忽者で

 いつも失敗ばかりしております。お方様の話し相手には

 到底なり得ません。すみません。もう諦めました。

 残念ですが今の話しはお忘れ下さいませ」と 明るく

言って笑う。その笑顔を見てお万の方は決断した。

「そなたは諦めがいいのですねぇ 突拍子もないことを

 言い出すかと思えばすぐ 諦めたと言う。私はまだ

 何も言っていないではありませんか。誰が断ると

 言いました。いつでも気兼ねなく遊びに来るが良い

 でしょう」 「わあ~本当ですか。ね ね 聞いた

およのさん。私 嬉しい」と 飛び上がらんばかりに喜ぶ。

「でも お局様には」と 心配顔のおよの

「大丈夫よ。この頃お局様はお蘭様にかかりっきりだから

 私なんか居ても居なくても気にしない。それに何も

 私とお方様が反目しあう事なんてないでしょう。

 お局様はもういいお歳 私とお方様はまだ若いんです

 もの 意見が合わないのは当たり前でしょう。そんな事

 気にしてたら広い世間が狭くなってしまいます」と

にっこり二人は微笑み合った。それから2日後 チサは

本当にお万の方の部屋を訪れて、貝合わせやカルタ等

楽しいひと時を過ごして行った。お方様もやんちゃな妹が

出来たような気がして連珠(碁の一種)を教えたりして遊び

主に合わせて日頃 静かなこの部屋も、その日ばかりは

花が咲いたように賑やかだった。


続く。

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