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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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月見の宴にて、、、

ややあって「それに相違無いか」と チサに尋ねた。

「はい 上様をお騙しした罪はこの通り伏してお詫び

 致します。どうぞお許し下さいませ」

「そうか 我が身の責めは負っても怪我の元となった

 者はかばうと言うのか」と チサには甘い 甘い

その優しさに感激している。それに重ねて「まことに

お優しき心ばえとお局様はじめ 部屋の者達も私めも

 心温まる思いでございます」と 和島までが持ち上げる

ので、チサはい花岡に食ってかかった自分を思い出し

身のすくむ思いだった。家光はさも我が意を得たりと

言うように何度も頷く。そうしてその長い夜は仲良く

仲良く過ぎて、、、翌朝 改めて大奥入りした彼は

終始 上機嫌で局にもいたわりの言葉をかけたり

日頃の労をねぎらったりして、言外に昨夜知ったチサの

優しい心使いを喜ぶ表現をした。局は チサ一人が

いい者になっているのをほろ苦くも思ったが

もとはと言えば、お玉の嘘が招いた事なので仕方が

なかった。昨夜の一件は秘密と言う事になっていて

チサの傷の事も家光が激怒した事も外部には漏らされぬ

はずだったが、いつの間にか奥女中達の間に知れ渡って

行った。あるいはあの夜 和島と共に寝所に詰めていた

菊路が口止めされたにも関わらず他人に漏らしたのかも

知れなかった。「上様はたいそうなお怒りでそ奴が憎い

八つ裂きにしても飽きたらぬと凄まじい剣幕で

 有られたそうな」等と 話に尾ひれが付いてだんだん

オーバーになって行く。それを聞いた花岡はさすがに

身の縮む思いをしたが、お玉は「これは私達に対する

当て付けでありましょう」と まなじりを吊り上げて

悔しげに言う。「なれどおチサは我等の名を最後まで

言わなかったと言うではないか。現に何のお咎めも

 無い。それはまことであろう」 助かったと言いたげな

花岡に「そうして私に恩をきせるつもりなのです。

 これから先 何も言わせぬたくらみだと思われませんか

 自分だけがいい子になって言外に私達を牽制しているの

 です。上様がおっしゃったと言われていることも

 元を探ればおチサ達が噂を振りまいているのでは

 ありませんか いいえ きっとそうです」と 形相

凄まじく春日局の部屋の辺りを睨みつける。このままには

置くものか いつか無念を晴らして見せるという強い

気持ちがありありと感じられるお玉の態度に、頼もしさと

少しばかり恐ろしさも感じる花岡であった。

こうしてこの事件は終わったが、大奥に吹き荒れる

女達の闘いは日に日に激しさを加えて行った。

それはまだ 六人もいる側女の内 誰一人として

受胎していないという事が、ますます争いを醜くして

ゆき、人を恨み 呪い じめじめとした果てしない

泥沼に広がって行く。その中で一番 風当たりの強いのが

チサである。チサはあの事件以来 そんな争いからは

努めて身を引いていつも明るくを心がけ振る舞って

いたが、その態度がまたお玉達にすれば不遜な

ふてぶてしいものと映るらしい。それはお玉に限らず

お夏 お里沙の両女にとってもそうだった。

この三人のチサに対する嫉妬の念は凄まじく、顔を

合わせる度 身体に錐でも揉み込むような鋭い視線に

あうのだった。それはやはり家光の愛ゆえに自分達が

お閨に召されても前とは違うと肌で感じるからである。

いつかこの踏みにじられた無念さを、、、

という三人の思いを晴らす絶好のチャンスがある時

巡って来た。


続く。

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