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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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庭での傷害事件

良い考えも浮かばぬままに2日過ぎた。あれから毎朝

家光は期待を込めた眼でお鈴廊下を見渡し、チサが

いないと局をじっと見る。無言のプレッシャーとでも

言おうか そのつどに局は背筋が冷たくなってしまう。

ついに4日目の朝 これ以上は隠しようがなかった。

局は上様は自分に嘘をつかれて、さぞや立腹なさる

だろうと思いながらチサを出仕させた。

その朝 久しぶりに出迎えの中にチサの姿を見た家光は

大満足で歩みより「良くなったのか」と 嬉しそうに声を

かけた。「はい」と しおらしく答えるチサ その顔に

病後のやつれの無いのを見て、(春日はなぜ 早く出仕

させなかったのか このようと顔色も良いものを)と

心の中で呟いた。顔色がいいのは当たり前である。

足の怪我だけで熱も3日ほどで下がり、後は動きもせず

食べたい物を食べて退屈していたのだからやつれて

いないのも分かる。その後 家光は小座敷に入り

そこで改めてチサを前に「もうすっかり良いようじゃな」と

声をかけた。「はい 数々の見舞いの品々を賜りまして

かたじけのうございます。チサは」と まだお礼の言葉を

言い終えない内に 「気に入った物があったか」

せっかちな声 久しぶりにチサと話すのが嬉しくて

仕方がないと言った様子 「はい 毎日今日は何かと

楽しみにしておりました。蜜柑も美味しゅうございましたし

 あの羊羹がまた素晴らしゅうございました」と 答えると

「そうか そちは羊羹が好きなのか」と 顔を覗き込むように

して言ってからしばらく考えている様子 家光はチサが

美味しいと言った物を毎日でも、食べさせてやりたくなった

のだ。もちろんチサ達のような高給取りなら大奥お出入りの

菓子屋から調達するのはわけないし 実際 女ばかりの

部屋 いつも何種類かの羊羹 饅頭 煎餅がおいてあった。

だが 家光が届けさせた羊羹は城内のお舂屋で造らせる

特別な物だった。そんな家光の顔を見て局は(これは

いけない)と思い「まことに 毎日 お心のこもった品の

数々 まだこのチサにはもったいのうございます。

 春日の言う事を右から左へと聞き流しているから

 この度のようなことになった次第 上様よりも強く

 お叱りくださいませ」と 話題を転換させる。

なぜなら チサだけにそのような特典を与える事は

大奥総取締役として、局の立場上 困る事になるし

チサへの風当たりも一段と強くなるだろう。

その夜 家光は待っていたように大奥泊まりを言い渡し

お召しは当然 チサに来た。春日局にはお玉やお夏達の

ため息が聞こえるようだった。



続く。

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