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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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庭での傷害事件

「さて どうしたものかのう。今さらに実は怪我を

 押して出ていたのじゃと仰々しく言い立てるのも

 まずい」 「ここは風邪でも引いた事になさっては

いかがなものでありましょう」 「風邪か ありそうな

事じゃな。風邪なら10日くらい いや 何かかにかと

 理由をつけてひと月ほど休ませれば傷も癒えよう」

「それがよろしゅうございます」と 言う事になって早速

家光には中奥の小姓を通じてチサの急病を知らせる一方

和島も他の同役に、本日より中臈チサは風邪の為

出仕できない旨を知らせた。その知らせを聞く年寄り達の

胸の内もさまざま 急病と聞いて今こそ我が部屋に

預かるお夏をお閨に送り込むチャンスとほくそ笑む浪野

本当の風邪なのか、先日の怪我というのがまことだった

のかと心配する花岡 「どこが悪いのであろうな」と

聞いたのは姉島 「お局様のお話ではこの2.3日

風邪気味であったところへ、無理をして出仕した為

 今日の昼から急な発熱という事でござった」と 和島

そこへ「ホホホ、、上様のご寵愛 深過ぎて過労気味で

 あったやも知れませぬなぁ」と 局がここにいない事を

幸いに嫌らしく笑ったのは浪野である。一方 チサ急病と

聞いて驚いたのは家光 「なにっ 急病とな。うむ風邪か

そう言えば今朝の顔色 少しすぐれぬと思っていたが

 病は重いのか」 「春日局様のお言葉では2.3日風邪

気味であったのを押して出仕したのが響き 本日急な

 発熱との事でございました」 「さようか 風邪と言って

おろそかには出来ぬ。心して看病してくれと春日に

 伝えよ」 「はっ かしこまりました。して代わりの者は」

小姓はチサが駄目とあれば他の側女をお召しと考えたのだ。

しかし家光は 「うむ」と しばらく考えた後

「いや 今宵はよそう」と言ってから「チサに見舞いの

品を揃えよ」と 命じた。それから暫し後 大奥に家光より

(お見舞い)と称して大きな籠にいっぱいの蜜柑と

馥郁たる香りを放つ10数本の牡丹花が春日局の部屋に

運ばれて来た。「このようなお心尽くしを受けてチサは

果報者じゃ」と 局は顔をほころばせたが、ふと それを

引き締めて「して 代わりの者は誰に」と 小声で

この品々を運んで来た表使いに尋ねた。

「はい それが上様 今宵のお渡りをお辞めになりました」

「ええっ」と 局はびっくりして思わず「それはまことか」と

聞き返さずにはいられなかった。そうしてそれがチサへの

愛情から発っした事だろうと思うと、心中複雑な気持ちに

成らざるを得なかった。部屋にお手付き中臈を預かる

お年寄りはみな 自分の部屋に居る中臈を少なからず

愛している。また その女がどれだけ上様の情けを

受けるかによって預かっている年寄りの羽振りが良く

なるか悪くなるかも、おのずと決まってくるのだ。

それゆえに先日のお玉 花岡一派のような事件も

起きてくる。局とてその点においては他と変わりはない。

局もお蘭やチサを 特に自分の目で町中から探し出し

ここまで育て上げたお蘭を可愛いと思っていた。

チサが閨に上がれぬとわかった時 局の頭を掠めたのは

他のお年寄り同様 代わりにお蘭が召されるのでは

無いかという望みだった。だが 現実はそれに反し

家光はチサへの見舞いにのみ、心を使い大奥泊まりを

取りやめてしまったのである。チサに比べてあまりに

愛されないお蘭が哀れだった。しかし成す統べは無い

重い息を吐いて局は煙草盆に手をやった。


続く。

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