庭での傷害事件
先程まではお玉や花岡の厭味に猛烈に怒っていたから
気が付かなかったらしい。痛みは次第に増して来て
部屋に帰り着く頃には少しビッコを引かなくては
ならなかった。部屋では局が厳しく注意せねばと険しい
顔で待っていたがチサのビッコにいち早く気づき、
泥だらけの裾をめくって見ると傷は思ったよりも深い。
「まあー これは酷い」 およの達は青くなる。
なぜ 今まで気づかなかったのかと自分達の手落ちを
責めた。どうやら池に足を突っ込んだ時 角の尖った
石ででも切ったらしく、深さ1cm 長さ10cm位の
傷口からジワジワと血がにじみ出している。
局も顔色を変えて 「早う 手当を」と、、局の声に
お蘭も飛び出してきて 「おチサ様 大丈夫ですか」と
心配顔で覗きこむ。「大丈夫です。ちょっとカスッた
だけですもの ついさっきまで忘れていた位だから
大したことはありません」 「でも 血が」
「生きている証拠」と チサは元気に笑って見せたが
傷口を拭かれる時には顔をしかめる。
「お匙を呼んだ方がいいのでは」 藤波が局に問いかけた。
「そうよのう お匙を呼ぶとなれば事が大きくなってしまう
どうしたものかのう」 「でもこの傷では、、、
もともとあちら様の嫌がらせによって起こったものです
から、、触ってもいないものを突き倒されたような
振りをするとはこじつけもはなはだしゅうございます」
「私共ははっきり見ておりました。おチサ様が危うく
身をよじって池に落ちた時 あれ~とお玉様がぎょうさんな
悲鳴を上げて倒れたのです。そうして顔を打つところ
だったと まぁヌケヌケと」 かな江は唇を奮わせて
悔しがる。「池に落ちるのを見てから倒れたのですよ。
私が顔を打つような石も木も側には無いと、言いましても
花岡様は石や木ばかりで怪我をするとは限らぬと、、
ドウと倒れたのならともかく へたへたと座り込む
ようにしたお玉様がどうして顔を打ちましょう」
かな江の怒りは収まらない。「もういいわよ。かな江
確かにふざけていて前を見ていなかった私も悪いの
だから それに花岡様にもあんなきついことを
言ってしまったのだから」 その時 かな江を止めた
のはチサだった。
続く。