{オズという装置}
「おお 綺麗にできましたな。キヨさんの腕も見下げた
ものでは無いな」 「まあー旦那様ったら冗談を
おっしゃっているんですか」 「いやぁそんなつもりは
無いよ。あの~チサさんと申されましたな。これは
少ないけどクリーニング代に取っておいて下され」
「ええっ」 「遠慮なさらずに 遠慮していただくほど
入っておりません。どうぞ」と 封筒を差し出す。
「そうですか そうでは」 「そうして下され」チサが
封筒を受け取った時 階下で電話のベルが鳴った。
婆やさんが慌てて降りて行き間もなく、老人に知人
からの電話だと告げた。老人も階下に降りて行き
チサは一人になった。そうすると急に辺りの静けさが
感じられた。もう ピアノの音も犬の声も聞こえない。
広い家で3人きりと言うのは寂しいと言った婆やさんの
言葉が実感として分かるなぁと帰る身仕度をしていると
山中老人がにこやかな顔で入って来た。
「お客様を一人にしてしまって悪かったですな」
「いいえ ちっとも そろそろ失礼しますから」
「えっ そうですか。それはちよっと残念だったなぁ」と
老人は急に寂しげな様子 「何か、、ご用でも」
「いや 用と言うほどでは無いがわしの研究室を
お見せしたかった。いや 是非とも見ていただき
たくて、今用意をして来た所じゃ」
「まぁそれは」 「お嬢さんがさっき興味が有ると言って
らしたので、久しぶりにわしの研究成果がご披露
できると喜んで、、、 いや 年甲斐もなく、、
笑って下され。つい いい気になって」と 寂しく
苦笑した。チサには息子夫婦に去られ、生き甲斐と
いうべき仕事も無くなった老人の寂しさが良くわかった。
そう言えば7年ほど前に死んだ祖父も、長年勤めた会社を
退職してから急に老け込み、いっ時には爺くさくなった
のを思い出す。チサは寂しそうな老人の顔を見るにつけ
何かこのまま帰りづらい気持ちにいつしかなっていた。
(少しくらい遅くなってもういいかなぁ。まだ2時前だし
家には後で電話出もして置いて)そう考えると
「せっかくだから見せていただきます。あまり長居は
できませんが」と 明るく答えていた。
続く。