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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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庭での傷害事件

チサとて例外ではない。春日局直々のお茶や書道 

礼儀作法など その他もろもろのお中臈教育から

解放されると、飛び立つように部屋を逃げ出してしまい

およのやかな江達を連れて庭へと足を運ぶ。

「ああ~やっと終わった。もうお局様の話しは長々しい

 から嫌になっちゃう。外はこんなにいいお天気なのに

 なぜ私だけ狭い部屋に閉じ込められてお勉強なのよ。

 お中臈なんて嫌ね」 「ま おチサ様 何て言うことを

もし お局様の耳に入ったら大変です。少しは口を

 お慎み下さいませ」と かな江は慌ててチサを制する。

チサはちょっと首をすくめて「はい はい かな江は

まるで若いお局様みたい」 「そんな恐れ多いことを

おチサ様には私の心がお分かりいただけないのですか

 お為になると思って申しておりますのに」と 

恨めしそうなかな江 チサはニコッと笑って

「分かってますよ。ただちょっとかな江をからかって

 見ただけ」と 言うと庭の飛び石をポンポンと

飛び渡って行く。裾が乱れるのはお構いなしだ。

「あれ またそのような」と 止めかけるかな江達にチサは

キヤッキヤッと笑いながら逃げて行く。その足の早い事

「お待ち下さい おチサ様 おチサ様」 慌てて追いかける

およのとかな江 おこう 捕まえようと必死になるのに

チサは庭木の影に隠れたりしてスルリスルリと身を

ひるがえして逃げてしまう。嫌な勉強から解放されて

暖かい陽射しの中 思いっ切りはしゃいでいた。

そんなチサ達をじっと見ている一団がいた。

それはそこから少し離れた築山にある四阿屋の中で

休息していたお玉と、たまたまその日 非番だった

お玉の預かり親 年寄り花岡である。

「なんとはしたない 中臈ともあろう者があのように

 裾を乱して走り回るとは」と苦々しげにつぶやく花岡

「まことに山出しの猿のようでございまするな」と

侍女の一人がきつい事を言う。花岡はポンと軽く膝を

打って「おお それそれ そちの申す通りあれは人に

 有らず猿じゃ 山猿じゃ ホホホ、、、」

いやらしく笑う。他の侍女達もさざ波のように笑った。

しかしその中で一人 お玉だけは眉をしかめてじっと

睨むような眼付きでチサの姿を追い回していた。

お玉は悔しかったのだ。なぜ 自分のように茶の道を

極め 和歌 書道 等などひと通り いやそれ以上の

たしなみを身に付けて、上様の側女として少しも恥じる

ことのない女を遠ざけてあんな見るからに無教養な

どこの誰とも知れぬ女が寵愛を受けるとは、、、、

まして特別な美人ならともかく、あの女は自分はおろか

他のお夏 お里沙 お蘭と比べても格段に劣る。

(なのに上様はあの女を)と 思うとお玉の胸は煮えたぎる

のである。確かに上様は今頃 お玉申す寝所に召して

くれるようになった。だがその回数はチサに比べると

驚くほど少ない。将軍とて毎夜 大奥に泊まる訳では無い。

月の内 何日かは忌み日があるし 政治が忙しくても

夜のお渡りはない。それを除いた日の大半がチサが召される

夜であり、その余りをお万の方 お玉 お夏 お蘭 お里沙

の五人が分けているのだから、お玉達は月の内一回

お召しがあるくらいがやっと、 それに引き換えチサは

二晩 三晩と続けてのお召しも少なくない。

やっとお閨に上がっても家光は親しく話したりせず

ごく普通に冷たくはないが優しくもなく一夜明けると

さっさと帰ってしまう。(思えば 今までもずっと

そうだった) チサのはしゃぐ声がお玉の耳に痛かった。

自分を笑うあざけりの声のような聞こえる。



続く。

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