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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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斬新なお掻いどりに皆の目が、、、

だが仏間の礼拝が済み、お小座敷で休息のおり 

局の立てるお茶をゆっくりと喫しながら、居並ぶ他の

側女達には見向きもせずしげしげとチサを見つめて

「それは良く似合っておるのう」と 濃紺地にカトレアと

小花の先の衣装の姿を見て眼を細めた。そんな事は

初めてだった。その場にいた女達は一様にハッと胸を

つかれて思わずチサに視線が集まる。

「初めて見る模様じゃのう。なんという花か」

「はい あのう」 尋ねられても困るのだ。まだこの時代

カトレアの花はない。仕方なく「私が考案したもので

下絵を書いて呉服の間にお願いしました」と 答えると

家光はびっくりしたように「そちは絵を描くのか」と

尋ねる。「いいえ そんな 絵というような大層なものは

 かけません。ただのなぐり書きに後は口で説明しました」

と慌てて取り消す。「そうか さもあろう わしには

そちがおとなしく絵筆のとっている姿なぞ 及びも

 つかぬ」と 笑いながらチサをからかった。

余人のいる前でこんな事を言うのも初めてだった。

まるで人の目を意識していない二人だけの会話のようだ。

春日局は眉をひそめ「そろそろ お時刻にございます」と

さりげなく促した。「うむ」と 素直に彼は立ち上がり

行きかけながら、思いついたように振り返って

「また 変わった新しい物を描いたら今度はわしに

 だけ見せよ。それなら絵がまずうても構うまい」

この一言が多かった。お玉 お里沙 お夏達は一瞬

顔面蒼白 噛み締めた唇がブルブルと震える。

局も今度は険しく表情で「お戯れが過ぎましょう」と

強く言う。そこまで言われて家光はやっと、馴れ馴れしく

し過ぎたと気付いたが、あまり動ずる様子もなく

「ハハハ ざれ言じゃ 気にするな」と 照れ隠しに

笑いながら行ってしまった。その後が大変だった。

お見送りが済んだ後 チサはお玉 お夏 お里沙

及びアンチ チサ派の女中達から文字通り

刺すような視線を一身に浴びる。日頃 チサがひそかに

敬愛しているお万の方も、さすがに気分を害したらしく

伏し目がちに顔を背けて去って行く。

チサの胸は痛んだ。 お蘭も悲しげに眼を伏せている。

お玉達はともかくチサはお蘭が堪らなく可哀相に

思えた。そっとその肩に手をかけて覗き込むと

顔を上げて少し笑って見せる。淋しい笑顔だった。


続く。

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