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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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チサの迷い そうして

チサは泣いていた訳では無い。ただ 名状しがたい恐れの

ようなものが襲ってきて身体の震えを押さえる事が

出来なかった。(本当に上様と私が愛し合うような事が

あるのだろうか。結婚 ああ こんな形の結婚なんて無い。

私は彼を本当に愛したのかしら) チサにも今まで

付き合っていた人は2、3人いた。だがそれは結婚まで

考えていた訳でなく恋人よりもボーイフレンドに近い

存在だった。でもその彼氏と会う時はウキウキする

ような楽しい気分になったし、話していてもそうだった。

食事をしたりドライブに行ったりしても、いつも楽し

かったし心弾む時間、、、それに引き換え今は、、、

家光との時間は比べようもない。育った環境が

あまりに違い過ぎるのは、それは仕方ないとして

家光には側女が5人もいる。言わば本妻さんと

別居して1号さん2号さんと5号さんまで居て

それが同居している訳である。そんな不自然な形

生活に自分はついて行けるのか、家光と過ごすひと時も

楽しいとは言い兼ねる。それよりも一種の緊張感が

あると言った方がいいかも知れない。

いつ 無礼な奴めと切られるかも知れないという

いつも心の片隅にあったからだ。それでもチサの

話しをいつまでもじっと聞いてくれる人だった。

彼に分かるはずのない現代の話を懐かしんで

している時も黙って楽しそうに聞いている。

チサを思い通りにしようと思えば訳ない立場に

あっても無理強いする訳でもなく、このひと月

何事もなく過ぎた。 これは彼の優しさなのだろうか。

まだ 本当の恋愛に巡り会っていないチサには

分からない事ばかりだった。もし チサが心から

愛していたら他の女達を閨に呼べなど決して

言わなかったはずである。なぜなら恋はその人を

独占したい気持ち 少なからず束縛したいものである。

人をわがままにさせるものであると思うのだ。

だが そこまで気づかないチサは今の妙な心の高ぶりに

驚いて家光との話し合いの中、慌てて布団に潜り込み

気持ちの整理をつけようとしていた。

そこへ家光が寄って来て 「どうか致したのか」と

声をかけた。チサが黙っていると困ったように

「わしには そちという女が分からぬ。なぜ他の者を

 閨に呼べというのか、それほどにわしを嫌うか」

「いいえ」 チサは起き上がってゆっくり家光に向き直った。

「私は自分の言った言葉に自分で驚いているのです」

「それはまた何故じゃ」「私はさっき上様にいつの日か新しい

 女が現れ、私は忘れ去られ惨めになると申しました」

チサは一語一語 その言葉を噛み締めるようにゆっくり

話した。家光は黙って聞いている。しばし 言葉が

途切れたが、やがて思い切ったように

「そうなる事を恐れているのではないかと思ったのです

 上様を愛してしまってから忘れ去られ捨てられるの

 は嫌だと 他の方々の為ではなく自分の為に」

「チサ もう良い」 家光はチサをさえぎり

「もう言うな それならば良いのだ。わしはまたそちが

 わしを嫌ってここに来るのが嫌さに、そんな事を

 言うのかと腹立たしく思っていたのじゃ。

 わしは次第にそちを愛しく思うに」 「上様」

「もう言うな わしの心は決まった。チサがどう言おうが

 生涯わしの側を離さぬ」と 力強くチサの手を引き寄せた。

(怖い) 何が怖いのか良く分からなかったが反射的に

身を引こうとしたチサ だが反対になお強く手を

引き寄せられた。 チサの心に起こった小さな迷い

家光を愛したのだろうかと思った迷いが言わせた言葉

人の為ではなく自分の為ではなかったかというひと言を

聞いた時 家光の心は決っした。燃え上がるものに

胸を押しつぶされ衝動的にチサの身体ごと引き寄せて

いた。「待って 上様 怖い」 まだ決心のついていない

チサは震え上がって必死の抵抗を試みるが

その間もないほどに彼の行動は早かった。

男の力の前にはチサのあらがいもの何ほどになろうか、、


続く。

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