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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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チサの迷い そうして

チサ自身の心のうごき  何時しか世代を超えて家光に

魅かれていたのだが、それには気づかず他の側女の為

にと勇ましく談判しにきた自分の言葉で、今 ハッと

胸を打つものがあった。(私は忘れ去られて惨めな思い)

とはいったいどういう意味なのか。それは愛を失った女の

哀しさではないか 私は後日 そうなる事を恐れているの

ではないだろうか。(私は 私は この人を好きになった

のだろうか) のけ反るような思いで家光の顔をまじまじと

見上げた。 まさかそんなはずはと我と我が胸に問うて見る。

(違うわ こんな過去の世界の人間 20世紀に生まれた

 私が愛するなんて) 思い返して見たが何か心にザラ付く

ものを感じた。(私は いったい何を) チサはふいに

立ち上がった。 「どうしたのじゃ」 驚いて尋ねる家光を

振り向きもせず 「今宵はこれで休ませていただきます」と

言いスタスタと自分の布団に戻って横になってしまった。

後に残った家光は呆気にとられてしまう。

将軍たる自分に対して何たる無礼な奴 思えば腹も立つが

チサの態度があまりに唐突だったので、しばし呆れていた。

全く 何を考えているのさっぱり分からない女である。

家光と一つ部屋に寝ながら身体には触らせない。

それでいて固くなるでも無く、明るく無邪気と言って

いいほどの笑顔でいろいろな事をしゃべり続け、自分には

想像も付かない不思議な事を話したり、表御殿で行う政治

の事を聞きたがったりと、とにかく今まで彼が知る女とは

全く 違っている。そんなチサに会うごとに魅かれて

行った。話し合うつど 新しい話題があり新しい考え方を

するチサとの夜のひと時 それがたまらなく楽しい

この頃の家光だった。彼は初めて女を顔の美醜に関係なく

人間として魅力ある者と見ることが出来た。

そうして今では離しがたい奴とまで思っているのに

何とした事か こともあろうに他の側女達とも閨を共に

せよと言い出したのだ。家光にはチサという女が全く

分からなくなった。(わしの心も知らずに)と腹立た

しい気持ちでチサの方に目をやると背を向けて深く

被った布団の肩の辺りがこきざみに揺れている。

(泣いているのか) びっくりして側まで寄って行った。



続く。

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