チサの提案が、、、
しかも その女達は他の男に嫁ぐ事もできず一生
この大奥で過ごさなければならず将軍が死ねば尼となって
菩提を弔う。(これではあまりに不公平だ。よおし)と
チサは「他のお方達の思われる事 別に不思議では
ありません。これは上様にも責任のあること 私から
お願いして見ましょう」と 言うと梅山は顔色を変え
「妙な事を言うものではありませぬ。上様にはお考えが
あっての事じゃ 女子が賢しゅう口を挟むものでは
ない。また そなたにそのような事を言われた方の
身になって」等 くどくど細かく言い聞かす。
「でも」と 言いかけてチサは口をつぐみまた掃除に戻った。
梅山とこれ以上議論しても無駄だと悟ったからである。
将軍が次から次へと女を変える事 これはこの時代では
無理からぬ事で、周囲からも次々と新しい女を差し出して
来るのだ。しかし チサはその夜 寝所で家光にその話を
した。つまり自分ばかりを指名して他の方々はどうする
つもりなのか、少しはお召しになってはどうかと
言ったのである。それを聞いた家光は驚いた。
そんな事を言ってくる女があるだろうか みな彼から
愛される事をひとえに願う女しか知らない。
「そちはまた 何を言い出すのじゃ」 呆れて問うと
「上様にはひと時のおたわむれかも知れません。でも女の
身にとってそれだけでは済みません。まして大奥を下がり
他の人と結ばれる事もできないと言うではありませんか。
上様は次から次へと、、、これでは不公平です。
私達女は上様の いいえ 上様に限らず男のおもちゃ
ではありません。まるで着古した着物のように捨てられ
るのでは溜まりません」と 挑むような怖い目つきで
じっと見る。だが家光は困った。 あいにく彼はそんな事を
考えた事はなかったし、教えられた事もない。
それどころか人々は自分が望んだ訳でもないのにお側女を
早くお世継ぎをとって言って次々と女を差し出して来る
ではないか「いったい わしにどうせよと申すのか」
「他の方々もお召しくださいませ。ひと時は好もしい女と
思し召しになって側室となさったのでしょう。なれば
最後まで責任を果たすべきです。他の人と結ばれる事も
なく一生を大奥で暮らすのはかわいそうだとお思いに
なりませんか。このままでは私だって上様に身を捧げる
事はできません」 「なぜじゃ」 「他人事ではありません
もの。今ようこのようにお優しくしてくださいますが
いつの日か上様は他の人に目が移り 私は今の方々の
ように忘れ去られましょう。それではあまりに惨めです。
上様一人に身も心も捧げた私はあまりにもの憐れです
もの」と 言ってうつむいたその眼にはうっすらと涙が
滲んでいる。チサは自分では気づいていなかったがその
言葉は他の側女達の為に言った言葉ではなかった。
続く。