ええっ チサが家光と、、、
今だかつて女性に閨を断られた事がないのである。
どの女も嬉々として側に擦り寄ってきたのだ。
チサは泣き出しそうな顔で、しかしはっきりと
「お断りします」と もう一度言うとプイと横を向いて
しまう。やにわに家光は立ち上がった。
来るべきものが来たとチサは首をすくめる。
(無礼者 手討ちに致す)と 言う声がとんで来ると
思いきや さにあらず スタスタと次の間との境 襖の
方へ歩み寄って行く。そうして自分の声で下の間に居る
和島達に気づかれていないのを確かめた上で
元の場所に戻ってきた。そしてチサをじっと見つめると
「わしは そちを手討ちにすることもできる」
「お討ちください」 跳ね返すような口調で答える。
「そんなにわしが嫌いか」 家光は少し呆れたように、、
悲しそうに尋ねた。それに対してチサはゆっくりと
首を振る「いいえ 嫌いも好きもありません。だって
私は初めて上様に会ったのですもの 今まで顔も
見た事がない 話しをした事もない人をどうして
好きにも嫌いにもなれましょう」 「そうか」
家光は少しチサの考え方がわかった。
「では これから好きになってくれい」と 優しく言うと
チサはフッとの笑って「それは何とも申し兼ねます」
「駄目か」 「先の事は分かりません。これからお付き合い
して見なければ」 「お付き合い??」
「はい いろいろな事を話し合って私が上様というお方を
良く知り 上様も私という女を良く理解して下さった
上で、なおかつ愛情があれば私は上様を愛するように
なるでしょう」 「それにはどのくらいかかるのじゃ」
チサはまた 可笑しくなった。上様はまるで坊ちゃん
みたいなところがあると思う。
「それも分かりません。男と女が愛し合うようになるのに
何時まで等と日を限る事なんて無理です。10日で
意気投合することもあれば、1年かかるときもあります」
「そうか では待とう そちがわしを好きになるまで
あっ そうであった。わしもそちを心から愛しいと
思うようになるまで それでいいのであろう」と
家光は晴々とした顔でそう言った。 事実 彼の心は
いつになく晴れやかだった。女と話していてこんな
気分になったのも久しかった。しかしチサは
「もし 私がいつまでたっても上様を好きになれなかったら
自由の身にして下さいますか」と 憎たらしい事を聞く。
家光はちょっと驚いた「それほどわしは、そちに嫌われる
顔をしておるのか」と 尋ねる。先日 チサが言ってた
熊みたいな男と言う言葉が胸にあった。 それを聞いて
チサは鳩みたいにクックッと笑い「どうひいき目に見ても
素晴らしいとは言い兼ねますが、男らしい魅力のある
お顔立ちではございます」と 臆する事もなくズバリ
言いきってまた低く笑う。
続く。