ええっ チサが家光と、、、
まず どんな観点で自分を選んだろうか 美人だから
これはとても考えられない。美人ならこの大奥にはたくさん
チサの知る限りでも大勢いた。では愛情があって
いや それは不自然だ。なぜなら将軍と言葉を交わした事
すらない。「上様はなぜ 私をお召しになったのか
お聞きになられましたか」 「さぁ それは」 「和島様は
ご存じないのですか」 「おそらくはご存じあるまい
上様は今日初めてお庭でチサをご覧になったのであろう
そなた達があの目隠しをした遊びをしていた時
ちょうど通りかかられて、私共にあの一番面白い尻を
叩いた女は誰じゃとお尋ねがあった」
「おも しろい 女」 チサは息をのんだ。そうかそれで
わかった。将軍は5人もいる側室にあきたらず
ちょっと毛色の変わった面白い女で楽しんでやろうと
思っているのだ。何という思い上がりかとチサは
腹が立って仕方がない。まあーこの時代では不思議でも
何でもない事なのだが、、、
「私 お断りします」 「何を言う」 梅山は飛び上がらん
ばかりに驚く。「私は上様の玩具になるのは嫌です」
「これっ」 他の部屋に聞かれては大変と梅山は慌てて
口を押さえる。「どうして 玩具などと 上様はそなたを
愛おしく思われればこそ」 「どうしてそんな事が
分かります。だって私をご覧になったのは今日初めて
でしょう。愛を感じるはずがありません」
これだからこのチサには手をやくと 梅山はほとほと
困ってしまう。他の娘ならこんな理屈は言わない。
上様に眼をかけられたら地位と権力が手に入る
こんないい機会を断るなんて事はしない。どうやって
説き伏せたらいいのか、、、 彼女は上様が恨めしく
なって来た。だがそこに春江が助け舟を出した。
「あら そうとも限らないわよ。下世話にも良く言う
でしょう一目惚れと言うのが」 「そうじゃ それに
違いない」と 梅山は勢い込んで決め込んでしまう。
すると およの達もそうだ そうだと言うように頷く。
チサはみなの単純さに呆れてしまったが、言われて
少し考えが変わった。(そうだ 今夜 それを確かめて
やろう。そうして思いっきり格好良くはねつけがやろう
何でも自分の思い通りになると考える高慢ちきな
鼻をへし折ってやるわ。例え殺されたって構わない)
別に惜しい命でもなくなっていた。この世界に来て
そろそろ2ヶ月 チサは芯から疲れてきていたのだった。
続く。