ええっ チサが家光と、、、
そんな様子を心配そうに布団の周りを取り巻いて
見守っている娘達 その中には他ならぬチサの顔も、、
この娘にしては神妙な顔で自分を見つめている。
それを見てまた胸がキュッと痛くなった。
こうしてはいられない。「気づかう事はない 別に病では
ないのじゃ」 梅山は起き上がり、呼吸をととのえて
「チサ これに参れ」 「はい」と チサは梅山の前に座る。
「先ほど和島様からお呼び出しがあった」みな一様に頷く。
「上様におかれては 本日花見の宴でこのチサをお眼に
留められ 今宵お閨にとお召しがあった」 「ええっ」と
みんな腰を抜かさんばかりに驚いて一斉にチサに眼を
集める。「私がっ」 聞いたチサも素っ頓狂な声を上げて
びっくり仰天 しばらくはみな声も出ない。やがて
「よかったわね おチサさん」 およのが口を切ると
みな思い出したように「おめでとう」 「よかったわね
凄いことよ おチサさん」と 口々に祝いを言う。
何しろ名もない部屋子から一躍 将軍の側室に
お覚えめでたければお年寄りでも一目おくお手附き中臈に
なるのだから、、、およの達にすればそれは凄い出世で
あり、めでたい ありがたい事なのだ。
だが チサは納得できない。いや チサでさえあまりの
事にしばらく気を動転させた。(私が この私が20世紀に
育った私が家光の側室にと)恐ろしい 何か恐ろしかった。
あのタイムマシンといい 私の運命はどこまで変わって
行くのか。これから先 どうなるのか考えれば
そら恐ろしかった。「チサ チサ」 ハッと気づくと梅山が
しきりに自分の名を呼んでいた。「旦那様 私」
「驚くのも無理はない。この梅をとて和島様からチサをと
聞かされた時 にわかには信じがたかった。しかし
これはまことじゃ 早速 支度をしなければ」
「待って下さい旦那様 私 まだお受けするとは言って
いません」 「えっ ではお受けせぬと言うのか」
信じられぬというように梅山達 みなチサを凝視した。
だが チサにとっては急に言われてすぐ返事のできる
問題ではなかった。 お手が付き寵愛されてお腹様に
なる事が幸せと考えている奥女中達とは違うのだ。
考えても見るがいい 20世紀に育った娘が顔を
見た事がない ましてやどんな性格かも知らぬ男に
ただ 偉い人だというだけの人に急に(俺の妾になれ)と
言われて(はい そうですか)と 素直に従う気に
なれるかどうか、、、
続く。