表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
題名のない物語  作者: 五木カフィ
165/166

家光と愛姫とチサ

その話をお万の方は京の実家より上様にと送られて

来た珍しい茶器を持って行った時に話した。

家光はここしばらく、表の政務が忙しく忌み日なども

あった為 朝の仏間拝礼の後 お小座敷にも寄らず

表に戻る日が半月ほど続いていた。家光はさも羨まし

そうに「お万はそこにいたのか。わしも居合わせたかった」と

子供のように残念がるのがおかしかった。

それから2日後 やっとひと区切り付いた家光は早速

お小座敷にチサ達を呼び愛姫に「いと姫よ。父じゃ

ち~ち」と 覚えさせようとするのを微笑ましく思い

ながら「上様 口を開けるア~とかオ~は発音しやすい

 ですが、ち~は口をしめて発音するので難しいと

 思います。今しばらく」とチサ 「さようか 父は

難しいか」落胆する家光に「私のことも母ではなく

あ~ちゃんとしか言えません。でも もうひと月も

 すればきっと父も言えると思われます」

「そうか 楽しみなことじゃ」と 愛姫を抱き上げる。

突然の事に一同 みなびっくりしたが愛姫は機嫌良く

キャッキャッと笑いみなを安心させた。

それからの姫は家光に会うたび 自分から歩み寄り

両手を上げて抱っこをせがむようになった。

チサや正子より一段高い所から見えるのが嬉しいようで

ある。家光も相好をくずして抱き上げ 

「いとよ。ほら父じゃ ち~ち」と 懲りなく教えると

間もなく「ち~」とひと声 「今ち~と言ったぞ。チサ

聞いたか」 「ち~ ち~」 「本当にち~と言ってます

上様」と チサも嬉しそうに笑う。

家光はその日 中奥で伊豆守に会った時

「いとがわしの事をち~と呼んだぞ。父とはまだ言えぬ

 がな」と さも嬉しそうに言うので伊豆守は驚きながらも

「それはまたなんと 姫様は二つになられたばかりで

 もう話されますか」 「いや 話すところまだは行って

ない。ただ こちらが話していることは、いくらか分かって

 いるようじゃ」 確かに幼児は一度言葉を話し出すと

びっくりするくらい上達が早い。今まで聞き貯めていた

事を吐き出すように、、、それまで大人達が話している事を

聞いていたが、それを自身の言葉として発っするまでが

大変なのである。「ご利発な姫でござります。 各大名や

ご本家筋から、妻に申し受けたいと申し込みがたくさん

 参っております」 「なにっ もう縁談が」

「さようでございます。すでに十数件」 「早い まだ幼い」と

眉を吊り上げて怒る家光に「何も今すぐにと言う訳では、、

 したが千代姫様は確か三歳のおりに尾張家に嫁がれ

 ました」と 言われると返す言葉が無い。

愛姫を手放すなど考えたくも無い家光である。

「あれは春日が、、いや お振りも身体をこわして

 だが そうじゃな。千代には哀れな事をした。

 今にして思う」ふさぎ込んだ家光を見て、伊豆守は

舌を巻く。こんなに考え方を軟化させた上様を見た事が

なかった。娘の存在が、、また母なる人の存在が家光を

変えていったのだった。



続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ