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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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名前は愛姫(いと姫)

竹千代は不思議そうに「なぜ 背を叩くのじゃ」と

尋ねると、チサが答えるより早くお楽が「お乳を吐かない

ようにするためですよ。若君も赤子の時は佐和が

 同じ事をしていたのです。若君は良く乳を吐かれて

 困っていたところ、おチサ様にこの方法を教えて

 頂き、試したところ本当に回数が減り丈夫にお育ちに

 なりました」 「ふう~ん そうか」まだ理解出来ぬ

らしい。当たり前の事だ 幼児に理解する事柄ではない。

その後も愛姫は順調な発育を見せ、生後3ヶ月で

薄めた野菜スープ 4ヶ月でとろとろに煮込んだお粥に

すり潰した野菜を入れたチサ手作りので離乳食を

与えて行くと、丸々とした元気な赤ん坊

それに季節が暖かくなってきたので薄着にさせ、足を

隠すような長い着物を足首ギリギリまで縫い縮めさせた。

本当は足を出すロンパースのような物にしたかったが

江戸時代の事 当時女の子が足を出す等 考えられない

事だった。生後6ヶ月になると寝返りをし始め 

すぐにお座りができるようになった。さすがに一人では

無理だが、座らせておくとしばらくはそのままの姿で

おもちゃを振ったりして遊ぶ。この早い成長ぶりに

正子は驚いた。明らかに他の子供よりする事が早い。

良く笑い 活発な愛姫を家光も目を細めて見る。

彼は仏間拝礼の後の小座敷に、愛姫を連れて来るよう

チサに命じた。その時は正子が抱き御前に出るのだが

愛姫は人怖じせずに家光にも笑顔を振りまく。

「いとは良く笑うのぅ その笑顔がいい」と 

親バカ丸出しである。三人の息子達にさえ見せた事の

無い顔に年寄り達は驚きを禁じ得ない。

また こういう事はすぐお玉の方の耳に入り、

彼女の心は憎しみに燃え上がる。徳松の脅威にならない

姫と言えど、家光の関心が徳松でなく愛姫に向く事

チサに向く事が腹立たしい。離れているとは言え

時おり聞こえる愛姫の子供らしい笑い声や、あやす女達の

声が耳ざわりだ。我が子徳松は4ヶ月早く生まれたのに

やっと寝返りを始めたばかり それに対して愛姫は

もうしっかりとお座りができ、ハイハイをするかの

ように見えるとお末達が話していたと、部屋の女達が

聞いていた。実際 それから2ヶ月後に愛姫はハイハイを

始め、それを聞いたお玉の心中は穏やかにはいられ無い。

飲ませている乳母の乳が悪いのでは無いかと勘ぐったり

勘違いもはなはだしい。姫は家光の前でも不規則な

格好ながらハイハイをして見せ、彼を喜ばせた。

それから間もなく お玉の所に徳松を連れて来るようにと

言うお達っしがあり、お玉は勇んでお小座敷に向かった。

幸い徳松は今 風邪も引いてはおらずお腹を下しても

いなかったので健康と言っていい状態だった。

乳母に抱かれて入って来た徳松を見て笑顔になった家光の

顔に一瞬 かげがさした。愛姫とはあまりに違う徳松の姿

すぐに笑顔に戻ったがお玉の胸は痛んだ。

「徳松 よう来た。父に顔を良く見せてくれ。

 おうおう そなたのこの眼は我が父上に良く似ておる。

 お玉 心して育ててくれ」 「はい 上様 若君は

もう言葉らしきものを発っせられます。ご利発なことと

 言ったら」と お玉は堂々と嘘を付いた。


続く。

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