名前は愛姫(いと姫)
その数日後 チサが新しく部屋を持ったのを待ち兼ねて
いたようにお楽の方が、竹千代達を連れて祝いに
やって来た。「おチサ様 いえ もうおチサの方様ですね」
「嫌だ お楽様 おチサの方なんて私らしく無いわ。
今まで通りにしましょうよ。それより懐かしいでしょう
このお部屋」 「お局様がいらしたお部屋におチサ様が
入られるなんて、、きっとお万の方様がそうはかられた
のでしょうね。お局様もお喜びになっていると思うわ」と
二人で話していると竹千代は焦れてお楽の袖を引っ張る。
お楽は慌てて「おチサ様 若君がぜひ妹君をみたいと
仰せになります」 「まあー若君 久しぶりにございます。
つい 母上と話しが長くなってしまい、失礼致しました」
「チサ 竹千代は妹を見に来た」 「はい 見てやって
下さいませ」と およのに愛姫を連れて来るように
目配せする。やがて 正子に抱かれた愛姫が
良く眠ったまま現れた。「まぁ 何としっかりしたお顔
なんとまたお可愛いらしい」とお楽 佐和も寄って来て
「ほんに可愛いい お顔でございますな。
いと姫と言う名がピッタリでございます」
「妹は愛姫と申すのか」 「はい 若君様は兄上で
いらっしゃいます」と チサが答えると竹千代は
満足そうに頷いて「母上 竹千代は立派な兄上になる」と
突然 宣言「まぁ 若君」と みな驚く中
「馬の稽古も剣の稽古も漢詩の勉強もする。
愛姫が大きくなったら教えてやるのじゃ」
「まあー若君 何と嬉しいことを お楽様」
「本当に、、母は嬉しい。竹千代 母は嬉しい」と
お楽は思わず竹千代の手を握りしめる。
竹千代は恥ずかしそうにしていたが手を離さなかった。
その時 目を覚ました愛姫が大きな声で泣き出したので
その声と泣き顔に竹千代達はびっくり仰天
顔中をしかめて大声で泣く姫に「母上 愛姫があんな顔に」
眠っている時の愛らしさと一変したのに驚く。
「若君 赤子はみなそうなのですよ。若君だって
吉松達だって生まれた時はみなあのようでした」と
チサ お楽 佐和 正子は笑う。
「お腹が空いたのね。では失礼して」とチサは姫を
抱き取り「若君 ちよっと待ってて下さいな」と
断り後ろを向いてお乳を与える。お楽はチサが乳母に
任せ切りにせず自分の乳を飲ませている事は
聞いて知っていたが目前にして、やはり本当だったのかと
うらやましいことと思った。こちら竹千代は初めて見る
機会に巡り会い、気になって仕方がない。
とうとう我慢できずにチサの前に回って乳を飲む
姫を見て唖然としている。そんな彼等を部屋の者
みながほほ笑ましく見守った。やがて十分に乳を飲み
満足そうに口を離した姫を肩にもたれさせて軽く背中を
トントンするとしばらくして小さなゲップをした。
見ているお楽や佐和は竹千代に同じ事をしたのを思い出す。
続く。