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題名のない物語  作者: 五木カフィ
157/166

チサの出産 そして

「赤ちゃんは」とまず聞く。「お連れします。まずお乳付けを」

産婆が答える。乳母がいても最初の乳は御生母が与える

習わしだった。上等な絹物の産着に包まれた姫が

チサの手に渡される。「これが私の赤ちゃん」チサは初めて

まじまじと我が子の顔を見た。(初めまして赤ちゃん

生まれて来てくれてありがとう)幸せで胸がいっぱいに

なった。(どこか私に似ている所があるかしら あっ いえ

この眉の形 お父さんに似ているみたい)それは祖父と

なるべきチサの父の眉だった。(かわいい)いつまで

見ていても飽きない。チサが頬っぺを触ると赤ん坊は

眼を覚まし盛大な泣き声を上げた。

「ささっ お乳を」産婆に促されてチサは初めての授乳

赤ん坊は勢い良く吸い付いた。初めての感覚

痛いようなくすぐったいような、、、

その様子を次の間からお万の方達がじっと見ていた。

しばらくすると産婆が「ささっ では姫様はこちらへ」と

抱き取ろうとするので「まだ 飲んでるじゃないの。

初めのお乳は特に重要なのよ。母親からいろいろな

 免疫を受け取るんだから一番最初のお乳が大事なの」と

抱きかえて反対の乳房をふくませる。

「でも あの いつもは」と オロオロして乳母の正子を

見る産婆 御生母がお乳を与えるのは最初の形だけで

後は乳母に任せるのが通例だった。

「私はできるだけ自分のお乳を飲ませます。その方が

 私の身体の回復も早いのですから」と言って聞かない。

「チサ それは本当なのか? 大奥では今までみな乳母に

 任せていたのじゃ それにはそれなりの理由があろう」

口を出したのはお万の方 「母君のお身体を考えての

事と聞き及びまする」と 産婆の言葉「それは栄養状態が

悪い昔の話しと言っても分からないわねぇ」と考え込むチサ

だが「お屋敷の外に出た事のないような暮らしをしていた

 お嬢様ならいざ知らず、私は大奥に来るまでは自由に

 町を歩き、山登りをし川遊びして遊んだり とにかく

 じっとしていなかった。乳母の正子の助けも受ける

 けれど私はできるだけ」と 言って乳を飲み終え

眠った子をそっと脇に寝かせた。そうして「正子」と

乳母を呼び寄せる。膝行して来る正子に「これから世話に

なります。初めての事ゆえ そなたに助けて貰う事は

 多々あると思いますが、私はなるべく乳を与えたいの

 です。私にも姉がいたのですよ。男の子と女の子

 二人の子持ちでした。字は違うけれどそなたと同じ

 真沙子と言う名でした」 「さようでございましたか

それで字を尋ねられたのですね」 チサの姉がいた

二人の子持ちだったという言葉は過去形になる。

賢い正子はそれに気づいたが何も言わなかった。

「だから 乳児の事は少し、、それに母が姉に注意して

 いた事も覚えています。お乳を飲ませることは私の

 身体の健康にも良いことだと言ってました。

 でも姉は夜 一刻半づつ起きて飲ませるのは辛いと

 良く言ってました。ズルいようですが正子には主に夜

 それと私が疲れている時などにお乳を上げて下さい」

「かしこまりました」と 役割分担が決まった所で

お万の方は一度長局に戻って行った。



続く

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