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題名のない物語  作者: 五木カフィ
155/166

チサの出産 そして

ほどいて見ると懐かしい品々が、、、

小ぶりのハンドバッグの中には口紅や手鏡 

変色してしまったティッシュやハンカチが入っている。

チサはハンカチを手に取った。市販の物に母が

レース編みで縁どりをしてくれた手の温もりを感じる

品である。(お母さん お母さん 私は過去の世界で

赤ちゃんを産もうとしているの。私が母になるのよ

 お母さんはお祖母ちゃん 決して会えない孫だけど

 お母さん 私恐いわ 心細いわ)心で呼びかける頬を

涙が伝う。およのはその肩にそっと手を添えた。

今は中臈と侍女では無い「およのさん」 「おチサさん

大丈夫よ」二人は手を握り合った。

「力にはならないけど私 側でじっとお祈りするわ」

「ありがとう およのさんが側にいてくれるだけで

 私は、、、」と その時顔をしかめた。

今 何かお腹の奥の方で微かな痛みが走ったよう、、、

「おチサさん」およのの不安そうな顔 その時また微かな

痛みが来た。「およのさん もしかしたらそうなのかも

 知れない。産婆さんを」 「はいっ」およのは

飛び上がるようにかけ出す。間もなく産婆が呼ばれ

産室が浄められた。チサも白無垢に着替え、髪も

引っ詰めに結ぶ。およの達付き添いも白装束に着替え

襷がけにする。陣痛は始まったばかりだがおよのはじめ

一同は緊張して知らぬ間に目が吊り上がった狐顔

チサは産室に入る時 ハンカチをとり手首に縛り付けた。

母の力を遠い未来から授かるよう思いを込めて、、、

チサの陣痛が始まった事はすぐさまかな江によって

お万の方に知らされる。お方様は後の用を和島達に

任せると急ぎ北の御部屋に向かう。かな江は梅山の

部屋にも知らせに行った。梅山は顔色を変えて頷くと

日頃 信仰する阿弥陀如来の持仏の前に座り、

静かに読経を始めた。部屋子達もその後ろに座り

手を合わす。その中にはチサやおよのと同輩の女もいた。

時を同じくして家光にも知らせは届いた。

彼はその時 書見をしていたのだが、チサの陣痛を

聞いてから文字が目に入らず、同じ所を何度も読み返し

まさに心ここに有らずという様子だが、うろうろと

歩き回る事も出来ず 一人悶々と時を過ごした。

初産は長引くものと相場が決まっていたようで

実際 お楽の方は16時間ほどかかった。

だからおよの達も覚悟を決め、昼食を取り夜に備える。

お万の方も一度戻り、用を済ませた夕方に再度

訪れるとチサが陣痛に苦しむ声が襖を通して聞こえた。

出産の経験もなく立ち会った事もないお方は

その声にすくみ上がり、ともすれば後戻りしたくなる

自分を励まして大きく息を吸い込みんだ。

そこへ産婆が出て来て「ことのほか順調でございますれば

ご安心を」 「さようか 大事ないか」思わず言葉尻りが

震える。産婆はニッコリ笑い「お方様の方が気を

 張り詰めていらっしゃる。おチサ様は落ち着いて

 おられますよ。この分では今夜 早くにご出生

 あるやも知れません」と告げた。



続く。

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