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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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チサと肘かけ椅子

「まぁ 本当にここがいいの」と 聞いたのはかな江

彼女も来年宿下がりするはずである。

「そりゃ 親に会うのは嬉しいし友達に会うのも楽しい

 けれど、、、お芝居も料理屋で珍しい物を頂くのも

 いいけど、、母がね。見合いと言わずに偶然を装い

 顔合わせをするように仕組んでいたのよ。3人も、、

 煩わしくて」 「おこうの目がねに叶った人はいなかった」

興味しんしんといった様子で聞くチサとおよの達

「叶うも何も私は再三 母にはどこにも嫁ぐ気は無いと

 文で知らせてあるのに、、、諦めが悪いと言うか

 困ってしまいます」と肩を落とすおこう

「でも 親御様の心配も分かるわ。私には親がいないから

 いいけれどおこうさんやかな江さんは年頃だもの」と

執り成すように言うとかな江も「お母様を悪く言うのは

いけないわ。おこうさんは一人娘だから、心づもりして

 いらしたのよ。それで3人共気にいらなかったの」

「そう思って見て無いし 気になる人は」しばし考え

「いなかったわ」と あっさり。だがそれから半月ほど

過ぎた頃 おこうに一通の文が届いた。

母からの手紙として同封されていたのは野口又四郎という

最後に会った兄の友人の弟だった。

つまり母の手紙は表書きだけであったので、おこうは

びっくりした。内容は一度お断りを受けたが自分としては

もう一度お会いしたい。会って詳しく語り合いたい。

もし 少しでも気にかけてくれるなら返事が欲しいという

ような事が簡潔にしかし十分に心を込めた言葉で綴られて

あった。おこうは側に誰もいない時 それを読んだのだが

正直 初めはびっくりしたもののそれほど悪い気は

しない。男の人から初めて貰ったラブレターだから

ドキドキするのは今も昔も同じ事 とは言え顔もはっきり

とは思い出せないような相手である。おこうは母への

返事に託してそれを相手に知らせた。

自分は生涯 大奥勤めをしたい事、失礼ながら貴方様の

お顔もはっきり思い出せないとしっかり書いたのだが

その後 又四郎は諦めずふた月 み月に一度の割合いで

文をよこすようになった。こうなるとおよの達が

気づかぬ訳が悪い。「誰 誰なの」 「母からの文よ」

「嘘 お母様の文なら私達に隠れてこそこそ読まない

 でしょう」と 好奇心丸出しで聞いてくる。

「隠れてなんかいません。母からの物です」と 上書きを

見せるがおよのもかな江も納得していないようだった。

おこうも内心困っている。彼はおこうが返事を書かなく

ても文をよこすのだった。内容はとりとめのない話で

自分が通う道場の話や近所の猫の話まで、ちよっと

ユーモアを交えて書いてくる。おこうはそれを読むのに

嫌でない自分に気づき驚いた。そんなおこうの宿下がりの

一件も落ち着いた頃は、もう桜の季節も過ぎようと

していた。



続く。

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