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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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おこうの宿下がり

おこうは言外に、どこにも嫁ぐ気はないと匂わせた

つもりだったが、ふた親は それには気付かぬ

振りをして娘の好物や、新しい反物 小物を並べて

見せるのだった。おこうには兄が二人おり、一人は

家を継ぎ一人は他家へ養子婿に入り、娘はおこう

一人だった。両親とすれば3年目の宿下がりの時

これで大奥勤めを止めて嫁入りして欲しかったのだが

おこうはまだ嫁入りは早い やっと勤めにも慣れて

来た所だと拒まれ、6年目になる今回は何としても

縁付かせたいと心づもりしていた。

だから12日の間に二人 三人見合いとまでは

行かないが、さりげなく顔合わせをさせる場を用意

して置いた。ひと夜休んで翌日からはなかなかに

忙しく、他家に入った兄が夫婦連れで訪ねて来たり

近くの親族が顔を見せたり、別の日には芝居見物

また別の日にはお寺参りとかいろいろもてなして

くれる。その中で芝居小屋の前でさも偶然を装った

見合いらしきものもあった。母のお茶会での仲間に

出会う。こちらは娘 相手は息子を連れての芝居見物

または先祖の墓参りに行った帰り道 立ち寄った茶店に

父親の将棋相手が、妻 息子を連れて来ていたとか

おこうにはすれば見え見えの猿芝居ながら、ここは

父母の顔を潰す訳にもいかず、ただにっこりと微笑んで

相手のぶしつけな視線に耐えていた。

もう一人は兄の友人の弟とかで兄夫婦と共に部屋の

みなへの土産を買いに行ったおり、町で出会い昼でも

一緒にと料理茶屋に入った。おこうはまたかとうんざり

したが、この青年は物おじせずハキハキと受け答え

食事の作法も理にかなっていて、今までの二人よりは

マシに見えた。だがおこうには嫁になる気等毛頭なかった。

こうして実家での気楽で居ながら煩わしい1週間も

過ぎてくると大奥に戻る日も近づいて来る。

あの3人からは承知の返事があったらしく、母などは

「誰か気になった人はいなかったのか」と しつこく

聞いてくる。おこうは苦笑して自分には過ぎるほど

いい方ばかりだが、どこにも嫁ぎたくないの一点張りで

ふた親を悩ませた。いかに大奥勤めであっても生涯

女一人で生きて行くのは容易で無いと、説き伏せるの

だが、聞く耳を持たず12日間の実家暮らしに別れを

告げおこう母チサ達の元に帰って来た。

「お帰りなさい おこうさん」 「お帰り~」みなから

歓迎されてホッとひと息 肩の荷が下りたような、、

身体が軽くなったように感じた。やはり私はこの場所が

一番落ち着ける。「ねぇ ねぇ どうだった。どこへ

行って来たの」 「どんなお芝居を見たの。美味しい物は

 食べた」等など 口々に尋ねる女達に土産を渡し終えると

お万の方に挨拶し、すぐに北の御部屋にいるチサの元へ、、

およのやかな江達の待つ部屋に向かった。

ちょうどチサは部屋付きの庭からの散歩から帰って

来た所だった。「あっ おこう 帰って来たのね」

「はい おチサ様 今日よりまたよろしくお願いします」

「楽しかった。ご両親は喜ばれたでしょう」

「はい とても楽しい毎日でしたが、おこうはやはり

 ここが落ち着きます」


続く。


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