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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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お玉の懐妊 そしてチサ

お楽の悪阻の時は食べ物の匂いが嫌 見るのも嫌と

青白い顔をしていたのとは違っていた。およの達は

お楽の時の様子を知っていたので覚悟していたが、

拍子抜けするくらい元気なチサだった。

悪阻も人それぞれであって腹帯を巻く頃になっても

ある人もチサのように2ヶ月足らずで済んでしまう

者もいる。二の丸のお楽の方からはたくさんの祝いの

品々がお松によって運ばれて来た。そうして懐妊を

祝うと共に、子を持つ先輩として何でも聞いてくれと

早く直に会いたいという文が添えられていた。

それと変わってお玉は北のお部屋に移る頃になっても

悪阻がおさまらず、美しい顔が凄惨さを増し花岡でさえ

ギヨッとすることがあった。お玉は我が身に引き換え

家光 お万の方 お楽の方と味方の多いチサに対向

しなければならないストレスが、さらに体調を崩す

原因であっただろうが、ますます男子誕生を願い

加持祈祷にのめり込んで行った。

北のお部屋というのは産室であり、この部屋に入ると

中臈といえども御台所と同じ扱いになる。

一つの部屋ではなく、身の周りを世話する女中や産婆の

控え室等 付属の間が三つ 四つ付いていた。

お玉がそのお部屋に移った頃 チサはすっかり元の

元気を取り戻して、家光が仏間拝礼を済ましお小座敷で

休息する時にお万の方と共に顔を出すようになっていた。

家光は愛しげに二人を見やり、チサには十分に身体に

気をつけて元気を子を産んでくれと声をかけ、

お万の方には(チサの事を頼んだぞ)と 目顔で頼んだ。

お万の方も心得たもので「上様 ご懸念なきように

 チサは悪阻も軽く、良く動いておりますので食事も

 進むようになりました。医師も驚いております」と

言上 家光は「チサ 元気は良いが無理は致すな」と

いたわりの声をかけ、中奥に戻る。この話がまた北の

お部屋の女中達の耳に入り、悋気の炎を燃やすお玉がいた。

一方 チサはみなに支えられ初めての不安も、

取り去られつつあった。気のせいか今まで気付かなかった

お腹の膨らみも、ほんの少し出てきたように感じて

いっそう妊婦としての心構えが出来てきた。

そう チサは 今は心ので中で折り合いを付けている。

今 この身に宿る新しい命 チサが20世紀に育った

者だとしても、それは関係なく日々成長する命

それを勝手に摘む事はできないし、その術もなかった。

それよりも何としても守り抜かねばという強い意志が

芽生えていた。そうしていつの間にか夏は過ぎ

秋深く中秋の月見の催しが、今年もやって来た。

各 局部屋では白木の台に団子やお神酒を供え、夜には

ご休息の間の庭にて歌合わせが行われる。

今 北のお部屋にいるお玉を除く上臈 中臈 年寄り

その他 高級女中達に加え、二の丸からお楽の方も

参加して歌合わせが始まる。この夜 その場に家光の

姿はなかった。表除く政事が長くかかり今で言う残業で

あった。


続く。

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