チサは過去の世界へ
「先程の娘はどうしているかえ」 「はい お茶を立てて
あげましたところ、だいぶ落ち着いたように見受け
られます」と およのが答えている。チサは起き上がり
衿元ヲ直した。 襖が開かれて梅山達が入ってくる。
「どうじゃ 少しは落ち着いたか」 「はい ありがとう
ございます。さっきは取り乱してしまいすみませんでした」
と畳に手をついて丁寧に頭を下げた。
「松島殿の急な不幸を聞いて気が動転したのであろう。
無理もない。わらわとてあのおり あまりに突然の
事で信じ難かった。夜 寝ている間におきた卒中じゃ
そうな。そなたも気落ちしたであろうが、、
まぁしばらくはこの梅山の元で部屋子として行儀見習い
するがいい。しかるべき後にお使い番なりお仲居なり
向いた仕事を計らって使わそう」と優しく言ってくれた。
この人も好い人のように思える。チサはしばらく彼女達の
勘違いを正さずにその松島という人の知人である事にした。
「ありがとうございます。申し遅れましたが私 鈴木チサと
申します」と 頭を下げたまま テレビで見た時代劇の
口調を真似て言った。 「おお さようか そなた達も
聞きやったな。チサというそうな。これからは仲良く
してゆくが良い」と 後ろの女達に言った。
「はい」と 女達は声を揃えて返事をすると、チサの周りに
寄って来て一人一人名乗った。 その後はおよのと同じく
チサの髪形やハンドバッグの事を口々に尋ねる。
みな不思議でならない様子 それを今度はおよのが
説明していた。
続く。