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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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チサの心に迷いが、、、

「その上に愛おしく思ってくれるお方もおられるでは

 無いか」 「はい」うつむいたまま語尾は震える。

その様子に「いかがした」と お方様はチサの肩に

手を添えて覗き込む。「お方様 上様は 上様は私を

愛おしく思って下さいます。でも でも私は本当に

 上様を愛しているのでしょうか。私には分からない 

 のです」 顔を上げ関を切ったように訴えるチサ

こぼれそうな涙を瞼に止めて問うた。お万の方はハッと

胸を突かれ眼を見張った。(チサは ああチサはその事を

悩んでいたのか そういえば)お万の方自身もかつて

人知れず悩んだ事があった。一生 経を詠み尼として

暮らすはずだったお方が、無理やり側女とさせられた。

大奥という見知らぬ世界 京言葉一つ使えぬ孤独な

世界だった。そうして連夜とも言えるお召しに懐妊せぬ

事を女達が陰口をたたく。その筆頭は春日局と見らる。

局は家光の関心が愛が、お万の方に移る様子を姑根性で

羨んだのだろうか。先に姫を産んだお振りの方には

見せなかった姿に恐れを抱いたのかも知れない。

局はようやくお蘭を見つけ出し、側女に仕立て上げたが

家光が傾ける愛情はお万の方が一番だった。

そんな四面楚歌の中で一人戦わねばならなかった辛い日々

その状況に追い込んだ人を、恨むとは言えないまでも

厭わしく思った時もあった事を誰知らず胸の奥に

しまい込んだ。その経験があるだけに今のチサの心境が

分からない訳では無いが、(何と言ってやればいいのだろう)

頭をめぐらせる。迂闊な事は言えないしかし生半可な

答えではチサも傷付く。「チサ そなたの悩みはこなた

にも一度覚えがある」 「お方様が」チサは顔を上げた。

お万の方は胸の内を隠さず話すことに決めた。

「こなたが尼より側女になった事は存じておろう」

頷くチサ 「幼い頃に母を亡くし寂しかったこなたは

 世の無情を感じ、一生を尼にて暮らすつもりであった。

 そんなこなたが慶光院の院主に決まり、莫大な寄進を

 してくれる徳川家にて御礼 挨拶におもむくのが

 通例の為江戸に参った。そこで上様のお目に止まり、、

 上臈という高い身分を与えられたが、この大奥は針の

 ムシロであった。言葉一つをとってもこなたの言葉は

 分からぬというように何度森聞き返された日々」

当時を思い出したのだろう。お方様の顔も沈む。

何言も柔らかく婉曲な言い回しをする公家の御所言葉と

強弱 白黒をはっきりと話す武家言葉ではおのずと違う。

チサも梅山の部屋子でいた時 良く同部屋の女達と

言い争いをしていたものだった。武家の子女が多い

社会に一人放り出された尼君 現代から過去の世界に

放り出されたチサ その意味では共通点がある。


続く。

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