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題名のない物語  作者: 五木カフィ
135/166

チサの心に迷いが、、、

「そうしましょう。今度は母上様にも手伝って頂き

 ましょうね」 「それはいい 母上 竹千代は母上の

作られた物がいい」と早速甘える。「分かりました。

母も作って見ましょう。おチサ様 手ほどきを」と

お楽の方 彼女は男兄弟がなく、兜は折った事が

なかったがそう難しい折りではないから、チサに

手伝って貰いながら、佐和と一緒に残る3つの兜を

折った。その兜の真ん中に、あらかじめ別紙に書いて

あった虎や獅子(実物を見て知っているライオンや

トラの顔はとてもリアルだった)それを糊付けすると

立派な兜である。早速4人は庭に下り小さな木刀を

振り回してふざけ出した。まったく元気な男の子

そんな様子を見守るお楽達のまなざしは愛にあふれて

側にいるチサにも温もりが伝わった。不意に胸が詰まり

思いがけず瞼の裏が熱くなり出した。

急な思いに驚くチサ いったいどうしたと言うのかこの

切なさは、、、奥歯を噛み締めて出ようとする涙を

押し止める。幸いと言おうかみな走り回る子供達を

見ていてチサの表情が変わったことに気付く者は

なかった。チサの心の底に眠らせていた父母への想い

姉への想い 何気ない日々の楽しかった生活

帰郷して来た姉夫婦と甥っ子 姪っ子の姿 

さして広くない我が家の庭を、アパート暮らしの2人は

楽しげに走り回って、、、懐かしく帰らない日々

チサの沈んだ様子に気付いたのはやはりおよのだった。

梅山の部屋でお茶を立てたあの時以来 およのは

チサにとって一番気の許せる友であったし、

またおよのも同じであった。「おチサ様」どうかしたのと

言うように小声で声をかけ、心配そうに顔を伺う。

ハッとして顔を見合わせるチサ 慌てて首を振り

「何でもありません。少し陽にあたり過ぎたのでしょうか

 若君達の元気さに気負けしました」と 微笑む。

「ご気分が悪いのですか」と お楽と佐和も心配そうに

覗き込む。「いえ いえ ご心配には及びませぬ。

 このところ何かと気ぜわしく、今日はここにお招き

 頂きホッとしていたところです。若君の元気なご様子に

 和んだのでございます」と 明るい笑みを浮かべた。

「その上 部屋の方でもこちらでも柏餅を食べすぎ

 ちよっと胸苦しくなってしまいました」 「まあー」と

周りを笑わせる。しかし その胸苦しさは大奥に戻っても

日が過ぎても澱のように心に降り積もって行った。

自分はここで何をしているのだろう。これから

どうなるのだろう。大切に思ってくれる人もいる。

他ならぬ家光だった。確かに上様は私を愛してくれて

いる。でも私は 私はあの方を愛しているのだろうか、、

そんな疑問が胸に膨らむ。今まで名実ともにお手付き

中臈になった夜から、ただ真っすぐに突き進んで来た。

当時の女性なら権力者に愛されたなら、その愛を信じ

失わないようにいることに努めるのが普通なのだろう。

そんな事を考える自分はやはりここにいる人達とは

違う現代人 家族もいない根無し草 考え出すと思考は

悪い方へ悪い方へと流れる。人前ではいつも通り明るく

振る舞ってはいたが、朝方 まだ暗い内に目覚め

起床の時刻まで身動き一つせず、考え込むような

日もあった。



続く。

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