梅山の更年期障害
「そのようにしたら この重苦しい身が軽くなるのか」
「はい すぐにとは申しませんが少しづつ、、、
絵や書をなさるのも気晴らしにはいいでしょう。
友人の母御は絵を習いに行ってずいぶん明るくなったと
聞いています」 「自信はないが絵ならば書いて見よう
かと思う」 「それは楽しみ 梅山様の絵を見とう
ございます」 「手始めに花など書いて見ようかの」と
梅山はすっかり乗り気になっている。心なしか頬に
朱味が出て声も強くなって来た。その様子に部屋子達は
嬉しそうに頷いてチサに感謝の面もち
「そなたの声に励まされたわ。もう床払いを致そう。
これ 髪を整えてたもれ」と 急に元気な素振り
「梅山様 あまり無理はなさいませぬよう、、
でも髪を整え、化粧をほどこすのはとても良い事
気分が晴れます。宜しければ化粧は私にさせて
下さいな」と チサが化粧台の前に座ると、
「そんな事をおチサ様に、、私共にお任せ下さい」と
部屋子の一人が進み出る。チサ達がこの部屋にいた頃
にはいなかった新顔の娘だった。「いいのですよ
私がこの部屋にいた頃は旦那様には、どれだけ心配を
おかけしたか 今その万分の一でも孝行が
したいのです」しんみり言って、鏡台の白粉を取り
少量づつ丁寧に伸ばしてゆく。眉を形良く整えはっきり
と引き、紅は少し薄く伸ばして唇に置くと見違えるほど
若返って見えた。くすんだ顔色も化粧する事により
晴れやかになる。チサは白粉をあまり厚くはたき込まず
頬や額シワもあえて隠さず 眉をはっきり書く事で
全体を引き締めるように仕上げた。また紅も何種類かを
手の申で混ぜて見て朱味を帯びた しかし上品な色に
して、少量をつけるとコテコテ塗るよりかえって
若々しく見えるのだった。部屋子達はみな食い入るように
様子を見つめている。化粧が済むとチサは鏡を梅山の
前に、、、「これでどうでしょう」 そこには以前より
5歳は若くなったおのれの姿 梅山は息をのんだ。
「おお これはまたなんと」無理をして若く見せている訳
でなく自然体の美しさ。梅山は手鏡を取りあちこちと
角度を変えて眺める。「別人のようじゃ」
「旦那様 嬉しそう」と 部屋子達も明るい声を上げた。
「着替えよう 少し歩いて見とうなった」と積極的な梅山
そのまま庭にでも出そうな雰囲気だった。
「梅山様 急にお外は行けません。今日の所はお部屋内を
何回か歩いて下さいませ」苦笑気味に釘をさすチサ
「おチサ様のおっしゃる通りでございます旦那様
一刻ほど前までお伏せりになっていたのですから」と
これは古株の侍女 「ほんにその通りであった。
チサが見舞いに来たとて、少し力を入れすぎたようじゃ」
嬉しそうな梅山 こうしてその日を境に庭歩きや絵を
趣味にしたりしてから病は身体から抜けてゆき
食欲も増し眠りも深くなって行き2ヶ月もすると
健康体に戻って行った。
続く。