梅山の更年期障害
さすがにおかしいと思い、チサは二の側にある梅山の
部屋をおよの達と共に訪れた。およのにとっても懐かしい
部屋である。チサ達のいる一の側と比べ、少し部屋の
造りが狭いとはいえ二階もあり、一軒家と同じ位の
広さがあった。前もって知らせてあったので、かつての
同僚達が嬉しそうに迎えてくれる。ただ 嫁に行った
春江の姿はここにない。許婚の殿方と結ばれ、昨年末に
男子に恵まれたと聞かされチサ達も嬉しかった。
しっかり者の彼女には何くれと世話になったチサである。
姿がないのは寂しかったが仕方がない。およの達に
持たせて来た土産の菓子を部屋子に渡し、梅山の休む
寝所に案内された。見れば梅山はやつれ顔を隠しもせず
床に起き上がってチサ達を迎えた。そのやつれように
チサは驚く。「梅山様 風邪を召されたとか、あまりに
長いお休みに心配しております」
「チサ 良く来てくれました。そなたの顔を見ただけで
力が湧くような、、、ほんに有り難い」
「気にはなっていましたがこの所 諸用が多く、なかなか
来ることができませぬ」事実 中臈であるチサは
将軍の相手が仕事のような物であったが、お万の方に
付いて書道 和歌 漢詩を読み解く等 勉強する事も
多い中に二の丸のお楽からは事あるごとに呼ばれるし
竹千代の健康には気を配り、中奥におもむいては
伊豆守と面談する事ありと、普通の中臈の二人分は
働いていた。梅山はそんなチサを愛おしげに眺め
「ほんに この部屋にいた頃よりはすっかり女らしく
なって、、、後ろ立てのないそなたを春日局様が
見て下さる事になり、わらわはホッとする反面
どうだろうかと心配したのも今は笑いぐさじゃ」
「大奥にて初めてお会いしたのが、梅山様でようござい
ました」 「まことそのように思うてくれるか。
嬉しい事よの」 「何やらご気分がすぐれない様子
どこか痛むとかするのでしょうか」
「いや 取り立ててどうと言う事もないのじゃが、、
この頃 立ち眩みがあったり胸が騒がしくなったり
吐き気があったりとして、どうも食も進まず
眠りも浅くてお匙が心気を良くする薬湯など診たて
てくれるが、いっこうに良く成らぬ」と うなだれる。
「立ち眩みや吐き気 眠りが浅い」小声で繰り返して見て
チサはどこかで聞いた事があるような気がした。
動悸や立ち眩み 冷えのぼせ イライラとくれば
更年期障害の症状に良く似ている。梅山は40代後半
だからまさしく閉経後のホルモンバランスが崩れる
更年期障害にピッタリと当てはまる。
「梅山様 急に汗がふき出たり、反対に手足が冷たく
思われる時はありませんか」
「ある 1日の内で暑くなったり寒くなったり、頭や
肩が重い」 「そうでしょう」と チサの顔は明るくなる。
「梅山様 私が知ってる限り この病は必ず治ります。
友人の母御が同じような様子でございました。
月の障りがなくなり始めた頃から、頭痛や腰痛
肩凝りなどの他 先程 梅山様がおっしゃられたような
事があったようですが、半年位 用心すれば徐々に
良くなる病なのです。体を動かす事も良いのですよ。
天気の良い日にはお庭に出て2回3回と巡り歩くのも
良いでしょう。お食事も何回かに分けて召し上がって
見たらいかがでしょうか」
続く。