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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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五度目の正月を迎える

その大掃除も滞りなく済み28日にはお納戸払いと

言って御台所が女中達に御衣古しのお掻いどりを

下げ渡されるのだったが、そのお方は今大奥には

いないので、お万の方やお年寄り達も着なくなった衣類

を奥女中達に下げ渡した。また この日には注連飾りを

お広敷きや御膳所に飾る。こうしてチサは五度目の

正月を迎えた。大奥では御台所不在の上 春日局も

他界しているので大きな行事はおこなわず、

元旦は将軍お成りの時に大奥を代表して、お万の方が

年頭の祝い事を述べ それを受けた後早々に表に帰る。

将軍は表御殿にて、御三家や譜代大名からの年始の

挨拶を受け、大名には時服を与えた。2日からは

御三家の嫡子 外様大名 大身の旗本等から同じく

年頭の挨拶を受け、3日は無位無官の大名や寄り合い

諸用達しの町人等からも挨拶を受けると、、と

このように毎日忙しいのであった。大奥では2日に

書き初めがあり、4日にはお弾き初めと言いお茶の間に

おいてお次の女中達が三弦を合奏し、ご祝儀の曲を

演奏した。5日になると大分落ち着いてきて

この日は将軍自らお目見え以上の奥女中達にお酌をする

お流れ頂戴の式がある。お年寄りはじめみなが緊張する

ひと時であった。家光はいたずら心を出して、お酌を

する時 わざと杯に酒をなみなみと満たして、

女達が阻喪しないようにと困る様を面白そうに眺める。

日頃 厳めしい顔付きのお年寄り達もこのいたずらには

悩む。しかしそこは家光も心得たもので、和島のような

本当の年長者にはあまり、なみなみと注がず若い女には

杯をいっぱいにするので、お玉やお里沙もこぼさぬ

ようにすればするほど 緊張して手が震える。

やっと飲み干し杯を返してホッとひと安心。チサにも

家光は容赦なく、こぼれんばかりに杯を満たす。

だが そこは反抗心豊かなチサのこと 家光をチラっと

見上げ、ひと膝前に進み寄るような仕草で杯を口に、、

ではなく、口を杯に近づけてクイッと飲んでしまった。

行儀作法も何もあったものでは無い。家光にはあの世で

顔をしかめる春日局の姿がありありと目に浮かんだ。

驚く家光 呆れるお万の方 はしたないと蔑むお玉達

しかしチサは素知らぬ様子で杯を返した。これには苦笑

するしか無い。そうして7日には七草粥を11日には

鏡開きをしてお汁粉を食し、また御対面所に飾って

あった餅や諸家より献上された餅を、賄い所の役人が

割って奥女中達に配られた。その大量の餅を煮たり焼いたり

または親元に送ったりする人々もある。チサ等はたくさん

貰っても食べ切れるものでは無いので、およのやおこう達

侍女にみな分け与えた。正月もすぎ寒さが厳しくなった頃

いつも将軍が大奥にお渡りの時の世話役 接待係の梅山が

勤めを休んだ。どうかしたのかと思い、部屋の者に

尋ねると軽い風邪だと答えた。 風邪ならばこの季節

珍しくはないと思い、少し様子を見てからお見舞いにと

思っていたが梅山はひと月過ぎても回復しないらしかった。


続く。

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