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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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五度目の正月を迎える

という事で、その後 何日かすぎてから御膳所の

魚買い付け担当の役人 その役の下には手付けという人が

数名いて、その中でも魚の目利きに詳しい者を河岸に

行かせ、今までは見向きもしなかった鰯や鯖を仕入れ

大急ぎで持ち帰り、すぐに調理に取り掛かり将軍の

御膳に上げた。その油ののった焼き鯖を食べた時の

家光は、満面 笑みくずれ御膳所一同にお褒めの言葉を

かけたので食事を担当する者 みな一様にホッと安堵した。

こうして月の内 3回位は青魚がのるようになったのは

チサの陰ながらの尽力であり、やがてそれは大奥の

御膳所 二の丸の御膳所に広まってゆき、初めては

そのような下魚 臭いの強い魚は嫌じゃと眉をひそめて

いた高級女中達も、食べて見ると美味しさに気づき

しかも身体に良い 長寿になると聞くと嫌がらずに食べた。

いつの世でも健康ブームはある物で、何かが身体に良いと

なるとみな一様に飛び付くのもやむなしというところか。

10月になるとまず、月始めのは亥の日に亥猪の祝いと

いう行事があってその日は奥女中一同に、城内の御舂屋で

作られた鳥の子餅及びお萩餅を下されるけれど、まことに

味気のない物をあったので、チサは迷わず砂糖と醤油を

煮詰め そこに水溶きカタクリを流し込み、

みたらし団子の餡のような物を作り、餅をつけて食べて

見ると思ったより美味しく食べられたので、お万の方

はじめ部屋中のは女達に奨めた。ただし食べる時に

注意しないと餡が垂れて襟元を汚すので、上品に

食べるのは難しかったが、みな美味しいと喜びひそかに

長局中に流行して行った。あまりおおやけにすると

料理の時同様 御舂屋の職人達の機嫌を損ねる事になる。

また その月の半ばには冬至があり、お目見え以上には

蛤の吸い物 煮魚 刺身等の魚類 蒲鉾 野菜の

炊き合わせに酒まで付けて振る舞われるのだった。

また お目見え以下にも同様の物がお年寄りから

下されたので、冬至を楽しみにしているお末等下級女中

もいた。こうして冬至も済み12月に入ると大奥は

年末に向けてすす払い 畳み替えと毎日が忙しくなる。

お次やお三の間に勤める者が1日交代で清掃に励み

長局はお末や部屋子達が清める。本来ならお手付き

中臈であるチサは何もしなくて良いのだが、そこは

じっとおとなしくしているチサではない。

運動不足解消とばかり 掻いどりを脱ぎ捨て前かけを

かけておよの達と共に張り切って柱を床をと磨き上げる。

その有様はお方様はじめお方様に付き添う人々を

驚かせた。「なんと チサがあのように生き生きと」と

お万の方は微笑む。「まことに。下世話に水を得た魚

という例えがありますが、そのようにございます」と

雪野も目を細める。二人共 このやんちゃなチサが

大好きだった。



続く。

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