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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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伊豆守と絹物談義

そこで一番若い弟子に二の丸へ実物を見に行かせると

その弟子は興奮気味にその手法を語り、すぐさま2日

がかりで作り上げた。もちろん絵の心得のある者

チサの書いた物よりもっと緻密な美しい作品が出来上がり

家光を満足させた。彼はそれをチサに見せ、どうだと

言わんばかりの自慢顔 するとチサも負けじと今度は

人間の面白い様を風刺漫画風に書いて見せると

家光は大笑い。またそれを絵師達に回す。絵師は気づいた。

この絵本を書くには緻密な絵よりも単純な線で描く

線画の方が良いという事 そうして何よりユーモアの

センスがいることなど、、、こうして若い弟子達の腕は

上がり、長く家光や奥女中達を楽しませたのである。

またそれは江戸の町にも流れて行きいっそう軽妙洒脱な

作品がたくさん出来、後にはそれを職業にする者も

出てきた。その年の秋 9月の半ば重陽の節句があった。

この日は御対面所の上段に将軍が座り、続く下段

二の間 三の間にはお目見え以上の奥女中達が居並び

一同へは白木の三方に紅白の重ね丸餅と、菊花一枝を

添えた物を賜る。家光は黄色の菊の花を浮かべた

祝盃をお万の方の手から受け、にこやかに口に運ぶ。

その後 お年寄りはじめチサ達一同にも料理や酒が

出された。そうしてこの日は奥女中達の一大イベントの

始まる日でもあった。暑い時季の衣装はお掻いどりと

よく似た形の着物を肩を大きく開けて下半身に巻付ける

ようにするのが夏の礼装だったが、この日から新調の

お掻いどり姿に変わるのだった。みなこの日の為に

工夫をこらし金もかけて誂えるのが楽しみなのだ。

お玉やお里沙はチサ同様 高給取りであったから

いくらでも衣装代をかける事が出来たが、

そうは出来ない者もいる。ともあれみな晴れ着に

袖を通してその仕上がりに喜ぶ者あり 期待ハズレと

歎く者あり様々だったが、この時もまず 目を引くのは

チサのお掻いどり姿である。チサは費用を賭けずに

新しいデザインで目を引くのだった。

この秋の新作は上半身は白地に大輪の菊 下半身は

黒を主にした地色に秋草を控えめ その代わり衿元から

膝辺りまでチエック柄の衿で縁取るという変わった

図柄だった。この衣装が部屋の衣桁にかけられた時は

お万の方はじめ侍女 部屋子が集まって見とれため息をつく。

「この度の意匠も見事なものですね。チサ」と

褒めたたえるお方様のお掻いどりも、あまりごたごた

した総模様的ではなく、上質な絹地に金糸 銀糸を

使った光沢のある柔らかさと、気品ある柄を選ばれて

いてそれはよくお似合いだった。

やはりもと尼君 公家のお姫様で有られたので

身に着いた気品は誰とも違う。



続く。

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