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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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七夕の夜事件

それからの将軍の食生活は少しづつ変わって行った。

魚は煮る 焼く 刺身だけでなく時には一口大に切って

炒めたり揚げたり野菜の葛あんをかけたりと

野菜も煮物だけでなく、茹でたり油焼きにしたりと

バラエティーに富んできた。もちろん時にはチサが

調理場にたって直接教える事もあったが、若い料理人達が

知恵を出しあい作る事もたくさんあった。

将軍の食生活が変わると同じく奥女中達の食事も変わるの

でみな大喜びである。いつの世も食べる事 着飾る事は

女の必要かくべらざる楽しみなので、お玉達も文句の

付けようがなかったが、夏 七夕の日に事件は起きた。

その日は御座の間という本来ならば御台所が住まう部屋の

一角の縁端に西瓜や桃 菓子などを山のように盛り付けた

白木の台を据え付け、その四隅に葉竹を立てて注連を張り

灯明を燈す。その竹の葉に歌を書いた短冊を結び付けて

遊ぶという優雅なものであった。珍しくお楽の方も

竹千代君共々 この七夕の夕べに参加していた。

竹千代は3人の遊び友達のような小姓と佐和に連れられ

初めはおとなしくお年寄りや中臈の詠む歌会を見ていたが

やがて飽きて来たらしく、モゾモゾと動き出した。

大体 五歳児にじっと座って置けというのがどだい無理な

話である。歌合わせが少し途切れた時 4人の子供は

騒ぎ出した。廊下を端から端まで走り回り佐和が年長の

小姓に注意しても納まらない。ドタバタとうるさい中

チサ達は歌を詠み合わせていたが、子供達はいよいよ

エスカレートして喊声を上げて走り回る。

たまらずチサが小姓を一人捕まえ「止めなさい」と

強く言うとその子は気性の激しい子だったのか、

いつも怒られている佐和より若い奴めと思ったのか

側にあった白木の台から桃を掴み 庭に投げ捨てた。

みな唖然とする中ピシャリと鋭い音がした。

チサが掴んでいる子の手の申をピシャっと叩いたのだ。

その子は一瞬 ビックリしたように顔をし だが次には

ワッと泣き出した。すると竹千代はじめ他の2人も

ベソをかきはじめる。そこへお楽が進みより竹千代の

手を取り顔を見上げながら「若君 男の子はメソメソ

 するものではありませんよ。吉松が叱られたのは

 仕方の無いことです。桃は食べる物であって庭に

 投げてはいけないのです。食べる物は粗末にしては

 いけないのですよ」と 優しくしかし厳しく言って

聞かせ、驚いて泣き止んだ小姓に「吉松 そなた達も

良く覚えておくのです」と叱った。ご生母の言葉には

誰も逆らわず、子供達は一様にシュンとなってうなだれる。

「佐和 若君は少し飽きて来られたのでしょう。

 そなた ひと足先に連れて帰ってたもれ」

「かしこまりました。さ 若君」と 佐和が竹千代の手を

引いて立ち去ると、みなホッとしたような空気が漂った。

「皆様 せっかくの七夕 歌合わせも半ばになってしまい

 ました。お方様 申し訳ございません」と お楽は

お万の方やお年寄り一同に詫びる。


続く。

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