表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
題名のない物語  作者: 五木カフィ
120/166

チサ 御膳所に立つ

「今度は鯖や鰯という魚も食してみたいぞ」

「それは、、、あの魚は傷み安い魚でございます。

 手に入るかどうか私には分かりかねます」

「御膳所に申しつけよう」 「上様 あまりご無理は

なさらぬように、、、」と チサは目を伏せる。

今日 御膳所であじわった冷ややかな視線

お玉やお里沙達にも嫌な思いをさせられているので

これ以上の敵は作りたくないのが本音だったが、

生まれ付きお坊っちゃま育ちの家光には分からない。

これが二人だけの時なら、いきさつをそれとなく

話して諦めさせることができるのだが万座の中では

無下に反対は出来ないのである。家光は満腹になって

この上なく上機嫌で「どれもみな 美味いもので

あった。同じ物を使っても違う一品ができるのじゃな

 お万 そなたも後で食するが良い。驚くぞ

 和島も花岡も味わって見よ」

「ありがたき思し召しにございます。これ上様に

 お茶を」和島に言われ慌ててお次の女は煎茶を用意する。

そのお茶をゆっくり喫しながら「慣れぬ事とて疲れたで

あろう」とチサをねぎらう。「体中の力が抜けた

ような心地でございます」 「さもあろう。今宵は

ゆっくり休むが良い」と 優しい言葉をかけてから

中奥に戻って行く。今日は精進日だったので大奥泊まり

が無いのだ。やれやれと言った感じでチサは本当に

腰が砕けるように座り込んだ。

「本当に疲れました。お腹も空きました。だって私

 お昼をいただく時がなかったのですもの」と

昼食抜きだったことを思い出して恨めしそう。

その様子にお方様はいつぞやのおよのとチサを

思い出し「それは大変 そなたには事のほか食が

 大切でありましたなぁ」と笑う。「お方様ぁ」チサも

当時を思い出して紅くなる。

「それではこなた達もチサの作った新しい料理

 あじわって見ましょう」との お万の方の言葉に

和島達は待ってましたとばかり箸を持つ。

その中には本来 今日は非番であるはずのお里沙の

世話親 姉島の姿もあった。お里沙やお玉は

またもやチサが上様に取り入ってと面白くないので、

顔は出さないが代わりには姉島や花岡に様子を

探って貰おうとの魂胆だった。お夏に付いて

天樹院(千姫)館に行った波野を除く四人のお年寄りと

お客会釈3人 この日の当番だったお次の2人

お仲居2人とお万の方とチサである。

チサの品々が残り7人前と中奥よりきた品々が

ほとんど手付かずにあるので量としては十分であった。

みな思い思いに箸をつけてビックリ

「これは美味しい」まず声を上げたのはチサに

いつも優しいお年寄り仲里であった。すると口火を

切ったように「これは美味」 「変わった味じゃ」

「美味しゅうございます」 「食が進むのう」等など

あちこちから声が出る。やはりみなチサの料理に

ばかりに箸を付け、中奥よりの品には手が伸びない。



続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ