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題名のない物語  作者: 五木カフィ
119/166

チサ 御膳所に立つ

しかる後 それらの品々を奥御膳所まで運び、新たに

盛り付け温めるものは温めて中奥で調理した品々も

合わせて将軍の待つお座敷へと運びこまれた。

チサは付きっきりで配膳係も努める。サラダ等知らない

お仲居やお次、女中達には無理だった。

新しい料理の品々にみな目を見張っている。

(綺麗 美味しそう)と言うのが彼女達は心の声だった。

家光がまだか まだかと首を長くして待っているその

部屋に入ってチサは驚く。お万の方はじめお年寄り達が

ズラリと並んで座っていたからだ。非番のが者までいる。

普段は将軍や御台所の食事にお年寄りは隣席しない。

それだけの格式があったからだ。給仕は中臈がつとめ

お下がりは当日勤務のお年寄りや中臈 それでも余れば

御膳所の者が頂くことになっていた。

「待ちかねたぞ」 お次の女中が運び並べる膳の上を見て

みな思わずひと膝乗り出して来る。今まで見慣れた

品々でなく、彩りの美しさがやはり目を引く。

それと小皿に付けられているマヨネーズやドレッシング

チサは胡瓜を箸で取りマヨネーズを3分の1つけて

小皿ごと家光に渡した。興味津々といった様子で口に

する家光 ポリポリといい音がして顔がほころぶ。

「いかがですか」 「美味いぞ 生では無いような」

「塩で軽く揉んでありますが生です。人参もどうぞ」

「うむ 美味い その黄色いのは何じゃ」

「マヨネーズと言うものでございます。卵の黄身と油と

 酢で作りました」 「変わった味じゃが美味いぞ」と

今度は鯛のサラダに手を伸ばす。チサがドレッシングの

かかった千切り野菜と一緒に小皿に乗せるとひと口食べて

嬉しげにすぐ代わりを要求 「鯛の刺身も今までとは違う

もそっとくれい」 「はい たくさんお召し上がりを」と

チサは同じ膳のものを取り分ける。少し箸をつけただけで

すぐに代わりのものをとは言わない。見ている和島達は

ハラハラしているが、いっこうに気にかける様子もなく

ニコニコと小皿に乗せては差し出す。

チサが思うに食事にも食べるタイミングがあると思う。

もうひと口食べたいなと思っている時に、お代わりをと

取り下げられ新しい皿が来る。その少しの間に食欲が

削がれる場合があると思うのだ。家光はもぐもぐと

まるで子供のように一心に、今度は鰆のソテーを口に

運び、「美味いぞ これは何という魚じゃ」

「鰆でございます。上様 いつもお召し上がりの物と

 同じでございます」 「そうか わしはこのようにして

食した事はなかったぞ。先夜 申しておった鯖とか

 秋刀魚とかという魚かと思った」 「いいえ こたびは

御膳所にあった物だけで調理致しました」

「満足じゃ どれを食しても美味いぞ」と 中奥より来た

品々には手をつけようとはしない。まぁ新しい物が

あれば仕方のない事であった。鯖も鯛も海老しんじょも

サラダも綺麗に無くなった所で「何かお代わりのものは

ありますか」と尋ねた。「鰆が良い」 「畏まりました」と

次の膳をと取り替える。



続く。

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