チサ 御膳所に立つ
この事は奥女中達の評判も良く日頃 チサの提案を
心良く思わないお玉やお里沙達も進んで参加した。
また 二の丸でもお楽達がチサの指導よろしく真剣に
取り組んだ。チサが訓練の提案をした事をお万の方
から聞いた家光はことのほか満足な様子
上機嫌でその夜 二人だけの時に「緊急時の事
お万が申していた。そちより進言した事だと」
「はい 梅山様にお聞きいたした所 昔このお城も
火災が二度あったというではありませんか。
怖いくなって、、私などどこに逃げたらいいのか
分かりませんもの」 「そうか 火の元には気をつける
ように見回りをさせておるが、それでも火事は起きる。
そこを逃げ道を定めておくという事に気づかなかった。
履物の事でもそうじゃ 和島達も感心しておったぞ」
「恐れ入ります」 「これからもみなの為 良いと思う
事あればゆうてくれい」 「はい お局様からは
お叱りを受けるやも知れませんが」と チサは笑う。
「春日亡き後も大奥のことはお万に任せて大丈夫じゃ
竹千代も健やかに育ち チサ そちはわしの側にいる。
わしは幸せ者じゃ」 「はい 上様 若君様は丈夫に
なって来られました。この上は上様もお身体に気を
お付けあそばして永く健やかに暮らせるように
しなければなりません」 「わしがか」 「お局様より
伺った事がございます。上様はご幼少のみぎり胃腸が
お弱かったとか」 「うむ そうじゃ。よく腹が痛んでなぁ
だが今は違うぞ」 「でも 持って生まれた体質は
そう変わるものではありません。上様は野菜はお好き
ですか。良く召し上がりますか」
「食べるぞ何でも、、じゃが魚の方が好きかな」
「お魚も身体にとても良いのですが、確か身分の高い
方々は背の青い魚 鰯とか鯖とか秋刀魚は
召し上がった事が無いのではありませんか」
「聞いたことも無いが、それは味良いのか」
「味も良いのですが、身体にとても良いのです。
白身の魚より、、、でも惜しむらくは腐り安いので
このような大きなお城では難しいのかも知れません。
野菜もたくさんの種類を食べる方が良いと思います」
「そちは食べ物にも詳しいのか。そう言えば竹千代が
赤子の頃 野菜で作った汁を飲ませたとか、、
お楽と佐和が驚いておった」 「はい 野菜はとても
身体を丈夫にしてくれます。炊くだけではなく焼いたり
揚げたり、私は生で食べるのも好きです」
「何と 生でか。味が無いではないか」
「それがそうでも無いのです。私が作って差し上げる
事ができれば良いのですがそんな事はできません」
「わしが良いと申してもか」 「上様、、」唖然とするチサ
「食べて見とうなった。チサが作る物 わしは食べたい」
駄々っ子のような物言いにチサは笑ってしまう。
「大奥や中奥の賄い方の方々がお困りになるでしょう。
そのような僭越は許されないと思います。あの方達も
精魂込めて上様の召し上がる品々を作っておられる
のですから」 「お万に聞いて見よう。何か良い手だてが
あるやも知れぬ」と 相談されたお万の方も答えに窮する。
続く。