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題名のない物語  作者: 五木カフィ
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チサは過去の世界へ

「そんなに遠くでは便りも届いてはいまい。さて 娘よ。

 これからそなたはどうする。国元に帰るか」と 

聞いてからすぐ「それも出来づらいであろうの」と頷く。

なぜならこの時代の娘が親元を遠く離れて大奥に

勤めに来る者の多くは、口減らしの為 一生奉公の

ことが多い。老女はチサもそう言った娘の一人と

思ったのであった。しばらく考えた後

「案ずるな。松島殿とわらわは永年の友であった。

 これからはこの梅山が世話親となってつかわす。

 ゆえに心おきなく身を任すが良い。悪いようには

 はからぬゆえ」と 優しく言ってくれた。そうして

「今は急な事ゆえ 気も高ぶっておろう。およの

 そなた面倒を見てやるがいい」と女の一人にいい残し

他の女を引き連れ部屋を出て行った。

チサは布団に身を伏せて泣きじゃくっていたが

次第に頭ははっきりして来た。およのという人の

好さそうな娘は、チサの背をさすりながら

「旦那様が ああ言って下さったのだから、もう心配

 することはっきり無いわ」と 優しく言ってくれる。

「ここは大奥なのですか」 震える声でチサは尋ねた。

さっき チラッとは聞いたがまだ信じ難い。

「そうよ 変な事聞くのね」 (やっぱり聞き違いでは

なかった)くらくらとめまいが、、、「誰の 誰の時代

豊臣 徳川」 まるで噛み付くような調子で尋ねる

チサにおよのはびっくり 呆れたようにしげしげと

顔を見て「あなたのお国まで関ケ原の事は届かなかったの

 豊臣は滅びて徳川三代様の御代よ」

「三代 将軍 家光」 虚ろな声でチサはつぶやいた。

三代将軍 なんと300年 いやそれ以上昔の事では

ないか過去の事ではないか(タイムマシン タイムマシン)

その言葉が あの山中老人がふともらしていたあの言葉が

今はっきりと胸に、鋭い痛みと共によみがえって来た。

「そんな 大昔に、、」ワア~とチサは打ちのめされた

ような泣き崩れた。 あの老人の言葉が今 現実と

なって我が身に降りかかっていた。

取り返しの出来ない場所 信じられない所 信じたく

ない事だった。しかし 現実は 現実は厳しく

変わりようも無い。狂ったように泣き伏すチサに

驚いたのはおよの 「ねぇ どうしたの ねぇ

いったいどうなさったのよ」と オロオロして背を

撫でる。しかしどうして気が静まろう。

チサはたった一人で300年以上の大昔に放り出され

取り残されてしまったのだ。父や母 姉 友人とも

離れて、、、、ああ あの人達はどんなに心配して

いる事だろう。結婚式の帰り道 行方不明になった

娘を気も狂わんばかりに探し歩いているに違いない。

帰りたい 今すぐに帰りたい。だが と涙ながらに

思う。帰る術がどこにあるというのだ。


続く。

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