鎧を着て過ごそう!
§ ミドル級の基礎代謝
ミドル級にした理由は、おそらく皆さんが知りたいのは欧米人の標準か、恵体な日本人の数字だろうから(苦笑)
ざっくり71kg程度で、現代アメリカ人の平均身長175cmとします。
これでも『普通体型ではあるが、理想よりは2~3kg多い』ですから、まあ妥当な想定でしょう。
ローマ人ならやや大きく、蛮人なら普通。戦国武者だと大男……かな?
基礎代謝は年齢によって大きく異なりますが、20~30歳ぐらいまでは1700キロカロリー強らしいので、計算しやすく1700としましょう。
1700の2.5倍は4250ですから、被験者フレンドリーに4250の方を適用します。
(実験の細かい数値をみてないので断定はできませんが、消化器官の能力に大差はないはずで、ここでは4000を適用が正しいかも)
そして――
4250-1700 = 2550
これが一日に許される運動というか、これ以上を連日続けたら倒れる限界点となります。
……奴隷を酷使する際の指針にも?
§ 鎧以外の重量
とりあえず――
戦場で一日過ごすのに、最低限度な必要と思われる物品
を考えます。
異論もあるでしょうから、どうしても気になる場合は各自で計算しなおしてください。
まず水でしょう。
半日だけでも凌げるぐらいは、水を持ち歩く必要があります。
アメリカ軍の指針で兵隊は一日に3リットルが望ましいとあるので、その半分で1.5リットルは水分を持ち歩くべきです。
イメージ的に1.5リットルのペットボトルを腰にでも提げてる感じですが……地味に重そう。
さらにハンガーノックの時にもやりましたが、小まめなエネルギー補給をする必要もあります。
そもそも一日に4250キロカロリー消費が前提なんですから、食事量がそれ以下だったら痩せ細ってしまいます。
ざっくりと3000キロカロリー分をちょこちょこ摂取&非常食にしているとし、それが理想的な重量――1gあたり5キロカロリーへ届いているとしましょう。
これで――
600g!
イメージ的にカロリーメイトやチョコレートバーを、30本ぐらい持ち歩いている感じです。
この水と兵糧は、小姓か誰かが持ち歩いているとすれば、無視できます。
ただ、壊滅して敗走する時に最後の保険ともなるので、真っ当な武人なら持ち歩いていたでしょう。
最低限度で戦闘に耐えうるナイフが、ざっくり500gぐらいです。
そしてフットマンズソードの類が1~2kg、歩兵用の槍や薙刀の類で4~5kgだそうです。
最後の武器にダガー。腰に予備の武器として剣。メイン武器で手槍の類として――大負けに負けて小計5.5kg!
(弓は計算面倒だったので割愛。要ると思うのなら、さらに重く)
ここまでの合計では――
7.6kg!
……まずいな。まだ被験者は裸なのに!ww
それでも、この状態での消費カロリーを計算してみましょう。
詳細は省くも、遊歩道散策レベルを5時間と考えて――
1538キロカロリー!
……あと1012キロカロリーしか。
遊歩道散策5時間という想定がハードすぎる!?
しかし、これは休憩などを含まずだから、1時間の散歩を計5回でも同じになります。
走ったり戦ったりのハードな運動も加わると考えたら、緩々もいいところな設定です。
また、この設定だと逆に限界までは、どれくらいなの?
そんな考えで計算機へ入力を続けると、なんと――
あと51kgの重さが可能!
ここからいえるのは武装分も含めると――
人間は散歩ペースで毎日5時間、約56kg程度の荷運びを継続できる
でしょうか?
これが重労働かどうかはともかく、これ以上のペースで働くと痩せ細り始めてしまいます。
荷運び専門な従軍人夫とかに相当し、けっこうな重労働でありつつ……意外なほどにコスパ悪かったりも。
水は道中で補給できるとし、gあたり5カロリーを実現できていても、この人夫は一日に4250キロカロリー――850gの兵糧を消費します。
これを人夫自身の積載量で割ると……約66日!
つまり、2か月以上かかる場所への遠征は、絶対に人力以外の方法が必須!
もしくは1か月かけて目的地へ届けられるのは、実質たったの15kg!
なぜなら帰路も人夫は食べねばならないからじゃよ!(空荷とならず帰りも何か運ぶ場合は、さらに効率悪化)
それに歩けなくなった人の足の代わりと背負って……なんてのも実は、剛力伝レベルでした!
56kgぐらいの女性とか、実は痩せている方だし!(昔な基準だと違う?)
また「昔の日本人女性が300kgの荷物を運んでいた」というのも、どこかで情報が歪んだと言わねばならないでしょう。
1時間を散歩速度で基礎代謝の2.5倍を超え、2時間で4000キロカロリーを超えてしまいます。
※
ちなみに女子のスクワット世界記録は150kg前後みたいです。
これは公式競技ではないようですが、パワーリフティングをやられる選手たちのデータとして自己ベストが公表されています。
資料を見た限り、しゃがんだ状態で補佐の人から肩へバーベルを乗せられ、そこから立ち上がるというものなようです。
立ち上がるための筋力と、耐えて歩く筋力が等しいとは言いませんが……限りなく近いもので間違いないでしょう。
ただ作者は「昔の日本人女性が300kgの荷物を運んでいた」という説に否定的な立場ですから、少し割り引いておいて下さい。
ふーむ……意外と50kgの鎧を着ていたは嘘でもなかった? しかし?
念の為に初心者レベル登山で再計算――
鎧0kgでも4287キロカロリー? ……4250超えちゃった。
これは各種前提が間違っている!?
調べられたのは――
毎日、7.6kgの荷物を持って、高尾山を1.5往復したら、徐々に痩せ細っていく
だから間違っていないけど、今回調べたかった事とは大きく違うかも!?
§ 別解
まず登山換算は投げ捨てて、戦闘行動のカロリーを出してしまいましょう。
色々と調べると――
試合レベルでボクシングを30分やると約500カロリー
というのが使えそうです。
日の出から日没までの間に、本気の動きは30分だけ。
想定として、それほど間違っていないでしょう。
よって――
4250 - 1700 - 1538 - 500 = 512
それが鎧の為に割り振れるカロリーです!
踏まえて計算機を弄ると――
約30kg!
とでました!
つまり――
身長175cmで体重71kgの標準的な戦士は、剣と短剣、槍、水筒、最低限度の兵糧、30kgの鎧という装備で、散歩ペース程度な移動を5時間、うち30分は本気の戦闘行動が可能
でしょうか?
ただし、これはかなり好意的解釈です。
基準を4250でなく4000としたら、鎧の重さは20kg程度まで制限されますし、戦闘時間を伸ばしていけばいくほど苦しくなっていきます。
……もっと他の小物も必要でしょうし。
基準を4000、想定戦闘時間を1時間としたら、鎧は15kg程度まで制限されてしまいます。
うーん……予想以上に重装歩兵は辛い!
騎兵と大差のない制限に思えます。
しかし、戦争が何日も続くのは珍しくもなく、今回の調査方法で判るのは最低限20日は継続可能なレベルです。
現地までの行軍なども考えたら、けっして大げさな話ではありません。
§ それでも重装備する方法
最も簡単な解決方法が――
運用時間を短くする
でしょう。
これでほとんどの問題点が解消されます。
陣地内であっても用が無ければ鎧下だけで過ごし、いざ出番となったら急いで鎧を着せて貰う方法です。
ですが、これだと幾つか問題点が残るかもしれません。それは――
・個人レベルで甲冑や重鎧の運用は絶望的
・軍事利用であっても、専属の係員が何人も必要
・運搬にも荷車か、専用の馬が必要に
・ヨーロッパ以外では騎乗する軍馬がいない
でしょうか?
この手間をペイできるかどうかは、当時に生きた人にしか判らないと思われますが――
30kg超級甲冑も、運用できなくはない
と思います。
同じコストで軽甲冑兵を二人運用した方がお得な気もしますが、重装歩兵にしかできない特別任務も……あるのかな?
まあ存在した以上は、何らかの利点はあった可能性が高いです。
(しかし、世界の残念兵器列伝が、存在≠有益とも教えてくれます)
§ 冒険の場面
旅する冒険者なら――
潔く鎧など着ない
という『非常に常識的な』判断もありとは思います。
水3日分+カロリーメイト3日分だけで11.5kg。最低限度の武器として剣一本が1.5kg。
必要最低限度の野営道具――基本的にマントへ包まって寝るだけ――が1kgとゴリ押しても、小計が14kgにもなります。
ですが道中は散歩以上初心者向け登山以下程度、それを一日あたり5時間と考えても……推定必要カロリーは3982キロカロリー!
つまり、鎧として許されるのは丈夫な服までです。
『なろうメタル製の超軽い甲冑』や『魔獣なろうの革鎧』などへ逃げるのすら厳しいことに!
違う角度への逃げとして――
冒険者は一週間ほどの短い旅ですら、軽く10kgは痩せ細る過酷な仕事
とするのはありでしょう。
もしくは――
伝統の収納魔法&手から水のでる魔法!
テーブルトークからの輸入品とはいえ、なければ始まらないマスト魔法なようです!