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ぬくもりを半分こする

作者: 日辻

――僕はただ君達と空を駆けたかった。



 人類が空を飛ぼうとするのはいつの時代も行われてきた事で、きっとこれからも続くのだろうと思う。あくまで予想だけど、あながち外れてもいないだろう。けれど、どうして彼らはそこまでして空を飛ぶ事に焦がれるのだろうか。僕にはそれが分からない。考えるまでもなく人類には鳥や虫のような翼や羽は無いのだから。飛ぶことは人体の構造的に不可能だ。一瞬であれば跳ぶことも出来るが、彼らが望むのはそういうことではない。自由に空を飛ぶことだ。駆けること、と称してもいい。この頃の僕は彼らの姿をつまらなそうに眺めていた。



 それから人類の文明が進むにつれ、彼らはついに空に浮く方法を編み出した。生身で無理なら道具を使えばいい。思えば人類という種は手先が器用で道具の扱いに元々長けていた。それを緩やかな進化の中で磨き、昇華させることで乗り物という形で生み出したのだ。僕は素直にその偉業を賞賛した。だって地を這うしかなかった彼らが空へと手をかけたのだから。もしかすると僕の願いが叶うかもしれない。僕は人類に希望を見出し始めていた。



 元々鳥や虫のように飛ぼうと試行錯誤していた彼らだ。どうして宙に浮くのか。その理論を確立させてしまれば、後は空を移動する為の推力があればいいと辿り着くのは早かった。しかし、それでも彼らはまだ空を飛べるようになったとは言えなかった。どんなに高く昇ろうとも、どんなに早く進もうとも彼らはいつか必ず地に墜ちてしまう。いつまでもどこまでも空を飛んでいたいと願う彼らに現実は非情だった。次第に彼らは空から離れていった。僕はそれを悲しい気持ちで眺めていた。どうしたら彼らがもう一度空へと飛び立ってくれるか。僕はそればかりを考えるようになった。



 考えれば考えるほど分からなくなった。そもそも彼らと僕とでは飛ぶ方法が違いすぎる。彼らには彼らの、僕には僕の飛び方がある。そこまで考えてふと僕は気がついた。彼らの飛び方を僕は知っているけれど、彼らは僕の飛び方を知らないと。なら彼らに僕の飛び方を教えることで、それをヒントに再び空へ来てくれるのではないだろうか。



 でも問題があった。文明が進んだことで彼らは未知の存在に対して、とても懐疑的になってしまった。僕が姿を現せば、きっと対話するよりも先に捕獲され、体を隅々まで調べ尽くされることだろう。確かに僕の体を調べれば彼らなりに飛ぶことのヒントは得られるかもしれない。でも、それではダメなんだ。僕には有って彼らには無い物が存在する。そして、何よりも僕の願いが叶わない。



 だから、僕はぬくもりを半分にすることにした。そうすることで僕は半分になってしまうけれど、残りの半分を彼らに分け与える事で、彼らも僕と同じようにいつか飛べるようになると信じてるから。だって半分は僕なんだ。だから飛び方だって知っているし飛ぶために必要なものだってある。あぁ、ようやく僕の願いが叶いそうだよ。長かった。生まれたときから僕はひとりだったから、ずっと願い夢見ていたんだ。



――君達と空を駆けたいと。

こちらでも掲載しています。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11867236

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