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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
47/47

第47話 飛行幼女《ラヴ人形》

今回は四日ぶりの更新です。


私なりに頑張りましたが、この辺が限界のようです。


今後も一週間以内の更新を目指して頑張りますので、どうかよろしくお願いします。


では、今日も読んでくれるあなたに感謝を……


ありがとうございます。

 なぜ誰も「上空」と言う言葉に触れないのだ……パトリックは、レオンと幼女のやり取りを聞きながら、一人悶々としていた。


「上空からみたら、ウメボシ入りのオニギリみたいだった」

 彼女は確かにそう言った。しかし、平原の真ん中に立つあの砦を上から見下ろせる場所など存在しない。


 つまり、あの幼女は空を飛ぶのだ。


 パトリックは、自分の出した結論に戦慄する。


「その幼女、飛びますよ!」

 そう叫び出したい衝動に駆られるが、勘違いだった場合のリスクを考え、彼はすんでのところで踏み留まる。


 いきなり「幼女が飛ぶ」と訴えたとしても、それを証明出来なければキチガイ認定される可能性が高い。


 戦場の死を怖れないパトリックも、社会的な死は怖ろしかった。


 彼はたかぶる感情を押さえ、機会を伺おうと冷静に周囲を見渡した。


 軍議は大詰めを迎え、幼女と貴族達は熱い議論を交わしている。


「つまり、敵の補給部隊を三角砦に誘い込むのだな」


「石窯か……あの炎の魔術なら可能かもしれん」


「我らの役目は、レナード騎士団を凌ぎつつ時間を稼ぐことか」


「陣を敷く場所はヨークハタ高原しかない。あそこなら敵の本隊を領内深くに引き込める」


「しかし、本隊はそれで退くだろうか……」


「お前は後方の二千が皆殺しにされても進軍を続けることができるのか?」


「これはレナードにとっても大博打おおばくちです。戦費だけではありません。ローデンや教会にも、アイザックはかなりの金をばらまいています。この戦に敗れればレナードの財政は破綻します」


「クク、敗戦など考えてもいないのだろう。単勝一番人気に全財産を突っ込む、競馬狂いのおっさんみたいだな」


「それと、アーガスは今も王都にいます。騎士学校での成績は優秀で、最近恋人もできたそうです」


 幼女の口から具体的な作戦が語られ、レオン達は細かい対応を打ち合わせている。

 そしてメレディスは、自分で調査したというレナードの内情について説明を続けていた。


 彼はレナードのふところ事情だけでなく、プライベートまで把握していた。

 あまりの情報通ぶりにパトリックはメレディスをいぶかしむが、今は「飛行幼女」の方が重要だと、すぐに思考を切り替える。


 貴族達は、レナードとの戦争について語るばかりで幼女の発言を追及する者は誰もいない。


「俗物どもめ……」

 パトリックは小さく呟き、口元に冷笑を浮かべた。

 あのレオンも、切れ者のメレディスも、幼女が飛ぶ可能性には気づいていない。

 

 このまま行けば「飛行幼女」の第一発見者は自分になる。パトリックは、空飛ぶ幼女の発見者としてちやほやされる未来を想像してほくそ笑む。


 彼の中では、幼女は珍獣のような扱いになっていた。


「おい貴族ボーイ、なに人の顔見てニヤついている? 粛清されたいのか」


 ニヤケ顔で狂った妄想を楽しんでいたパトリックは、幼女の声で我に返った。


「申し訳ない、同志ハルートちゃん。ちょっと考えごとをしていて……」


「軍議をサボタージュか……いい度胸だな。貴様も素っ裸にして、バース人形の隣に並べてやろうか?」


 パトリックの青ざめた顔が、股間に花瓶を被せられた全裸の男に向けられる。


「ニェット! サボタージュではありません! 同志ハルートちゃんを見ていたのは、あなたに聞きたいことがあったからです!」

 同志パトリックは幼女書記長に敬礼し、大きな声で答えた。


「聞きたいこと? それはなんだね貴族ボーイ。少し……陽気な感じで言ってみたまえ」


「ダー! お任せ下さい、同志!」


「Hay Little girl! Can you fly in the sky?」

 Patrickは幼女に尋ねた。


「Yes I can fly in the sky」

 YojoがPatrickに答える。


「Yeah! just as I thought!」


 パトリックはやり遂げた。





「リュウだからね、空くらい飛べるさ」

 彼女は、愛らしい顔に涼やかな笑みを浮かべてそう言った。


 穴の空いた天井からはまばゆい光が降り注いでいる。

 白光の翼をまとった少女は、光の梯子はしごを登るように、光芒こうぼうの中をゆっくりと昇っていく。


 上空を軽やかに舞う姿は、まるで光の妖精のようだ。


「魔術……なのか? しかし、あの神々しさは……」


「馬鹿な、空を飛ぶ魔術など聞いたことがない」


「断罪の炎、癒しの光、そしてあの翼、あれではまるで……」


「女神……」 


 ただ呆然と見つめる者、ひざまずき祈りの言葉を捧げる者、誰もが、彼女の神秘に魅せられていた。


「人間達よ……」

 

 幻想的な光景の中、美しい声が響く。


 彼女は翼を大きく広げ空中で静止すると、慈愛に満ちた瞳でこちらを見た。


 透き通った翼と空が重なり、青白い光が辺りを包む。


「裏切ったら、一族郎党皆殺しにします。みんな死ぬ気で戦うように……」


 穏やかな声のなかに凍えるような殺気を感じる。あれは本気だ、脅しではない。


「貴族どもよ、我らの女神はファルティナほど甘くはないぞ」

 黒狼が誇らしげに言う。


「ハルート様、我らの戦女神……」

 銀色の狐は、彼女を見つめて恍惚としている。


 獣人達の女神――彼女がレナードと戦うのは、ハーンズを守るためではない。


 自らの復讐のため、奪われた命の弔いのため、彼女は戦の先陣に立ち、屍の山を築こうとしている。


 暴虐の幼女ハルート……


 カロッツァの砦を焼き尽くし、魔王種の群れを殲滅した、白い魔女。教会の聖者達を二分する「ハルート派」の象徴シンボル、白い聖女。


 彼女が一体何者なのか、それは未だ分からない。


 けれど……


「ハルート殿……兵士や街の者達にも、その姿を見せてやっては下さいませんか?」


 この幼女は力だ。


 その暴力、その姿、その知性、すべてがあの人を守る力になる。


「いいよ、コウモリちゃん。勝利宣言でもして、連中の士気を爆上げしてやろう」


 彼女は天井を抜け、館の外へと飛び出した。

 窓の外から、どよめきと歓声が聞こえてくる。


「さてメレディス、君の真意を聞かせてくれるか?」

 天井を見つめたまま、彼はメレディスに声をかけた。


「分かりました、ハーンズ卿……すべてお話しいたします」


 愛しい人の問いかけに、彼女は静かに頷いた。




 レナードの侵攻を止める術はなく、ハーンズの滅亡は時間の問題だった。いつ裏切るともしれない領内の貴族達を信用することなど出来なかった。


 だから、一人でやろうと思った。


 少しでも情報を得ようと、金も体も差し出した。男の振りをする女をあの男は思いのほか喜んだ。


 アイザックの信用を得るたびに、レオンからの信頼は失われていった。


 忠誠の証にと教えた秘密は、父が死んだ今では、アイザック以外に知る者はいない。


 あのエスパー幼女を除いては……


 久しぶりに訪れたレオンの私室で、メレディスはこれまでの日々を思い返していた。


 目の前には、真剣な表情のレオンが座っている。


「この部屋に来るのも久しぶりですね」

 何気なく言った言葉に、メレディスの胸は痛んだ。


 彼女がレナードに接触する前は、彼と二人、この部屋で語り合うことも多かったのだ。


「君が来なくなって、私は少し寂しかったよ」

 レオンは少し笑って、メレディスを見た。


 その視線にメレディスの鼓動が早まる。


「色々忙しかったのです。リンギットは遠いし、アイザックは人使いが荒いので」

 

「そうか……」


「はい、私はレナードに通じていましたから」

 メレディスは普通に会話をするように、レオンに告げた。


「それは、ハーンズのためではないのか?」


「いいえ、自分のためですよ」


 それは、ある意味真実だった。


 すべては自分の想いのため……そのためならば、裏切り者として殺されても構いはしない。


「この裏切り者の首、ハーンズ卿の手でねて頂きたい。ただ、一人では寂しいので、バース男爵とラミレス殿も一緒にお願いします」


 メレディスは、すでに覚悟を決めていた。


 最大の外敵であるレナードは、あの怪物幼女によって滅ぼされる。ならば自分は、内側に巣くう害虫どもを始末すると。


「バースは知っていたが、ラミレスもか……」


「はい、レナードの指示で動いていたのは、私も含めたこの三人です。私達を処刑すれば、他の日和見達が裏切ることもないでしょう」


「そう簡単に処刑など出来ん……」


「私が皆の前ですべてを告白します。ハーンズ卿は、その場で私を斬ればいい。それで彼らの逃げ場はなくなります」


「メレディス、君はそれでいいのか? 君はレナードを探るために、アイザックに近付いたのではないのか?」


 その問いに、メレディスは笑って首を横に振る。


「あの幼い天使を見て、改心しただけです。もちろんそれで、今までの罪が消えるわけではありません。私の渡した金でアイザックは兵を雇い、私の情報を元にして戦略を練ったのですから、私は死んで当然の人間なのですよ、ハーンズ卿」

 

 メレディスはそこまで言って、まぶたを閉じた。


 彼女は思う。


 未練がないと言えば嘘になる。けれど「好きだから尽くしています」なんて、言えはしないし、言いたくもない。


 心から溢れる声は惨めなほどに女々しく、それはまさしく「女」だった。


「行きましょう、ハーンズ卿、彼女が戻ってくると面倒なことになる」


「嘘だ……」


「ハーンズ卿、覚悟を決めて下さい。あなたは領主として、これからも――」


「違う、君の話じゃない……」


 レオンの視線は壁の飾り棚に向けられていた。


 棚の上には、美しいガラス細工がズラリと並んでいる。


「あれは、ハルドラ工房の……」

 王都でも評判のガラス細工、ハーンズのどこかで作られているらしいが、その場所はメレディスにも突きとめることは出来なかった。


「そんな、あり得ない……」

 それを見たメレディスもまた、驚愕の声を洩らした。


 二人の見つめる先、棚の端っこに人形が座っていた。

 その人形は首を傾げた姿勢のまま、瞬きもせずにこっちを見ている。


 色は暗めのネイビー、大きめのフードに、生地は厚手のメルトン生地、フロントにはトグル。


 空に飛びたったはずのソレは、いつからそこにいたのだろうか……部屋の扉は一度も開いていないのに。


「ラヴゆえに人は苦しまねばならぬ、ラヴゆえに人は悲しまねばならぬ。それでも……この世にラヴは必要なのだ」


 聖帝ハルート人形のありがたい迷言が響く。



 その言葉にメレディスは、言い知れぬ不安を覚えていた。



前半部分にあったイングリッシュは、陽気さを表す表現であって、特別な意味はありません。


一応、訳を書いておきましょう。


「へい、お嬢さん! 君は空を飛べるのかい?」


「ええ、飛べるわよ」


「やっぱり! 僕の思った通りだ!」


こんな感じです。


なんですかね、これは……


ちょっとした遊び心だと思って勘弁して下さい。


では、サンキューでした。

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