表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
44/47

第44話 嫉妬《ネーミングモンスター》

お久しぶりです。


ホラー企画用の短編連載を書いてました。


おかげで十日ほど、こちらは更新出来ませんでしたが、今回の話はちょっとおかしいです。


何故、こんなことになったのかは分かりませんが、真ん中辺りから特におかしい気がします。


後半はえらいことになっています。


もしかしたら、少し手直しするかもしれません。


その前に読んでくれる、あなたに感謝を……


ありがとうございます。

 ハルートは獣人達を引き連れて、ディルハムへとった。シャロンは、主人のいなくなったハルート邸に居座り、酒に溺れていた。


「話が大きすぎて、わけワカメ……なんつって、フフ」

 自らの軽快なオヤジギャグにニヤつきながら、シャロンは一人、酒をあおる。


 確かに情報を求めていたが、あんな話は、正直言って手に余る。

 アレクシアに報告したとしても、信じてもらえるとは思えない。それどころか、女神への侮辱だとして、罪に問われる可能性だってある。


 忘れた方がいい話だ……


 けれど、「もっと知りたい、真実を確かめたい」という思いが、シャロンの心の内から留まることなく溢れてくる。


「まるで『禁断の肉』……」


 人には知らない方がいいこともある。もしそれを知ってしまったら、その魅惑の味から逃れることは出来ない。


 シャロンは、ファルティナ教の聖典にある“禁忌のお肉”の話を思い出す。


好奇心、知への欲求、女神への不信……禁忌の毒は、シャロンの心を確実にむしばんんでいた。


 彼女の話……いや、彼女自身が『禁断の肉』なのだ。人を惑わし、女神と子供達の絆を壊す、白くて柔らかいプニプニの……甘くてジューシーな魔性のお肉。


 彼女はすでに、自分が聖女であるということを、知るための手段だと考えていた。


「大した堕落ね……」

 シャロンは苦笑する。

 

 そしてあれも、自分にとっての「禁断の肉」だ……シャロンは壁に立てかけてあるギターを見た。


 その洗練されたフォルムと美しい木目に、心がざわつく。


 手の中では、地獄から召還されたようなキモいグラスが、妖しい輝きを放っている。シャロンは胸にかけていたメダルを外すと、キモいグラスをテーブルに置いた。


「女神は死んだ。少なくとも、私の中では……」

 聖女は呟く。


 女神かのじょはもう、唯一絶対の存在ではないのだ。


 シャロンは壁に立てかけてあった、“彼女にとっての禁断の肉”をその手に掴んだ。


 そして、聖者のメダルをピック代わりに、激しくそれを掻き鳴らす。


 荒れ狂う激情の叫びが、悲鳴のようなギターサウンドと絡み合う。


 シャロンは殴るように弦を叩き、デタラメなメロディーを酒でかすれた声で歌い続けた。


「女神は死んだ!」


 聖女は叫ぶ。


 それは確かに、ロックンロールだった。


 


 時間は昼中ひるなかを過ぎ、クローナ村の残留組は慌ただしく動き回っていた。


 他村への対応、魔物の駆除、そして祭りの後片付け……やるべき事は多く、人手はまるで足りていない。


 そんな中、エルフの少女は不満顔で、広場に散乱した酒樽をコロコロと転がし、隅に寄せていた。


「ハルートに会いたい……」

 カサンドラは、四十以上も年下の幼女を思い、憂いのある表情で呟く。

 

 ハルートのディルハム行きに伴い、同行を望んだカサンドラだったが、「お前の存在を理由に、勇者が介入しては困る」という幼女の言葉に、渋々クローナ村への残留を受け入れていた。


「おのれキリュー、頭とアソコが腐ればいいのに……」

 カサンドラは、やや理不尽な怒りを勇者に向けつつ、広場の片付けに精を出す。


 作業も一段落して、少し休んでいると、広場を徘徊する見慣れない人物の姿が目に入った。


「あれは……変質者!」

 変態は変態を知るのだろうか、幼児性愛者ペドフィリアの鋭い観察眼は、その怪しげな人物を一目で変態どうるいだと見抜いた。


 すっぽりと被ったフードのせいで顔は見えない。

 片手には酒瓶を持ち、フラフラした足どりでイオニアの尻を追い回している。


「ロリコンめ! お前は、この村にいてはいけない人間なんだ!」

 クローナ村在住のロリコンが叫ぶ。


「其は忌むべき性癖にして偽印の使徒、神苑の淵に還れ、招かれざる者よ」

 どこかで聞いたような、何かがおかしい呪文が響き渡り、カサンドラの手に風が集まる。


「風よ! 少女の敵を撃て!」

 気合の声と共に放たれた風の砲弾が、不審者に直撃する。


「オギャッ!」


 不審者シャロンはベビーのような悲鳴をあげて、惨めに地面を転がった。




 教会塔ファリスの聖女と森の聖魔術師、数年振りに再会した二人の間には、気まずい空気が流れていた。


 修業時代に聖女リアナの付き人をしていたシャロン、リアナと共に勇者のサポートを務めていたカサンドラ、二人には直接の接点があるわけではない。


 時折、顔を合わせることはあっても、せいぜいが挨拶を交わす程度で、世間話すらしたことはなかった。

 何より、シャロンの知る森の聖魔術師……カサンドラは、気軽に話しかけられるような気安い雰囲気を持った人物ではなかった。


 寡黙で感情の乏しいエルフ……それが、シャロンがカサンドラに抱いていた印象だった。


 まるで、別人みたい……

 

 砲撃したことをしきりに詫びるカサンドラの表情を見て、シャロンは思う。


 それは、あの祭りの時にも感じたことだった。


 彼女は慣れない様子で司会を務め、舞台に立つ幼女の世話を嬉々として焼いていた。


 そして、その顔には常に笑顔があった。


「あなたは、そういう顔をする人だったのですね」

 シャロンはカサンドラに対して、思ったままの感想を口にした。


「それは、どういう意味でしょうか?」


「以前のあなたは、もっと冷たい印象でしたから……」

 気分を害したならごめんなさい、とシャロンは頭を下げる。


「いえ、気にしません。でも、首輪をはめられ、鎖で繋がれれば、誰もがあんな顔になりますよ」

 カサンドラは何かを思い出すような顔をして、悲しげな愛想笑いを浮かべる。


「首輪……」 

 その言葉は、シャロンにローデンとエルフの関係を連想させた。

 

 エルフとローデンは、表向き対等な友好関係を結んでいる。しかし、彼らの暮らす深閑の森は、事実上ローデンに支配されていた。


 友好という名の支配、協力という名の隷属、彼女と勇者の関係も同じということか……シャロンは、勇者の英雄譚、その闇の部分に触れたような気がした。


「あなたと勇者キリューの関係は、良いものではなかったのですか?」


「どうでしょう……ただ、彼を信頼することは出来なかったような気がします」


 この目だ……感情の感じられない冷めた瞳、死んだ魚のような目。勇者のことを話すカサンドラの瞳は、シャロンのよく知る森の聖魔術師のものだった。


「だからこの村にいるの? 獣人達と一緒に、人間と距離を置いて……」

 

「えっ! いや、それはハルートがいるから……」

 その名を口にした瞬間、カサンドラの顔がほころんだ。

 表情には明るさが戻り、その美しい顔からは自然と笑みがこぼれる。


 なんて綺麗なんだろう……その笑顔に、思わずシャロンは見とれた。


 それはまるで、愛しい人を想う少女のようだった。


「幸せなのね」

 彼女の笑顔につられて、シャロンの顔にも笑みが浮かぶ。口調は、いつの間にか普段のものに戻っていた。


「今日はちょっと寂しいかな、留守番だから……」


 そう言うと彼女は……花のように笑った。




 ディルハムの街、領主の邸宅の一室は、異様な雰囲気に包まれていた。


 領主レオン、騎士ディーノ、そして、それぞれの部隊を率いる指揮官達、彼等を睥睨へいげいするのは一人の幼女。


 色は暗めのネイビー、大きめのフードに、生地は厚手のメルトン生地、フロントにはトグル。


 白き暴君、ハルートちゃんである。


「では皆の衆、手筈通りに頼む」

 両脇に、黒狼と銀狐を従えた幼女が、領主をはじめとする軍関係者に指示をだす。


 それに異を唱えるものは一人もいない。


 彼等は知っている、いや、思い知らされたのだ。


 目の前の幼女こそが、レナードに滅びをもたらす恐るべき破壊者であり、ハーンズを救う唯一の希望……救世主であることを。


「ハルート嬢、大丈夫なのだな」

 最後の確認にレオンが尋ねる。


「問題ない。いや……人道的には少しばかり問題があるな」

 幼女はその愛らしい顔をほころばせて、クククと笑う。


 なんて、禍々しいんだろう……その笑顔に、レオンは思わず震えた。

 

 それはまるで、世界を滅ぼす魔王のようだった。


「レナードは不幸だな」

 幼女の笑顔につられて、レオンの顔にも苦笑いが浮かぶ。口調はいつの間にか、レナードに同情的になっていた。


「何しろ人間オーブン、丸焼きだからな」


 そう言うと幼女は……悪魔のように笑った。




 樹海の深淵を、散歩でもするかのように歩く者がいる。


 両手足は深い闇のように黒く、その爪は鋭い。漆黒に縁取られた瞳には、深い知性が感じられる。甲冑の隙間から見える身体は白い体毛で覆われている。


 モノトーンの悪夢こと、『鎧大熊猫アーマードパンダヨーゼフ』である。


「久しぶりだな、シャドナ」


 パンダが声をかけた先には、血の臭いを漂わせる白い人狼の巨体があった。


「ヨーゼフ……何の用だ、決着をつけにきたのなら少し待て、これを食い終わったら相手をしてやる」

 大型の魔物を骨ごと噛み砕きながら、白い狼はパンダに向かって殺意のこもった視線を送る。


「今日は、白黒つけるつもりはない」

 

「貴様! また、そんなイカした台詞を……なぜ、そんなにサラッと思いつくんだ。天才なのか?」

 パンダのモノトーンジョークに白狼は嫉妬の炎を燃やす。


「……シャドナよ、君は白い悪魔を知っているか?」


「一時期、樹海の深淵で暴れまわっていた奴か、会ったことはないが、そいつに美食家が喰われたという話は聞いている。あと、その呼び名はカッコイイな」

 白狼は、俺も白いのに……とブツブツ言っている。


「クルトーが……それは残念だ。ポワレ、コンフィ、テリーヌ……故郷の料理と言っていたが、彼の作るものはどれも美味かった」


「故郷? 樹海で料理などやっていたのは、奴くらいだろう。オシャレぶりやがって」

 

「彼は変わっていたからな、よく不思議な世界の話を聞かせてもらったよ」


「ふん、多少の知恵と力はあったが、所詮は月喰い。この樹海では弱者だ。たとえオシャレ番長であってもな」


「……確かに、彼女の相手にはならないだろうな」


「そいつに会ったのか? もう10年ほど話を聞かなかったが、生きていたのか?」


「ああ、サイクロプスの王が群れごと潰された。しかし10年か、もっと幼く見えたが……まあ、彼女も人ではないのだから、見た目で年は分からないか」


「ほう、ガッツをやったのか。そいつはどんな魔物だ? 正直、色が被っているのが気に食わん。そいつがいなければ、俺が白い悪魔とか呼ばれてたんじゃないか? 『白い悪魔シャドナ』イケてるよな?」


「……彼女は魔物ではない」


「なに、まさか人間か? いや、人じゃないって言ってたな。じゃあ……えーと、闇の、いや、神話の伝説的……戦慄の――」


「竜だ。彼女は、ファルティナ山の白き暴君、白竜の娘だ」


「竜……竜だと! あのホワイトレジェンド? 冷酷なる白き……えーと、風? じゃなくてファルティナ山の白き暴君! あっ、これお前が言ったヤツだ! 白い悪魔! 違う! クソ! 思いつかない!」


「……あの白竜の姫は、人の元で暮らしているようだ。会いたくないか?」


「白竜の姫……なんでお前はそんなイカしたネーミングが出来るんだ。練習とかしてるのか?」


「……会いたくないか?」


「会いたくて、会いたくて……震える。あっ、これ良くない? ねえ、良くない?」


「なんか、パクリっぽい気がするな」



 こうして今日も、魔物達の夜はふけてゆく……

 



今日中に更新したいという想いが強すぎたのか、奇妙な話になってしまいました。


今回登場した、「鎧大熊猫アーマードパンダヨーゼフ」は13話に少し、「白狼王シャドナ」は12話に名前だけ出ています。


「クルトー」は2話の「月喰い狼」です。


ちなみに幼女が出ているパートの後半は、その前のパートの後半と対になっています。


意味は特にありませんが、良かったら比べてみて下さい。


では、今回もありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ