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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
4/47

第4話 山羊魔人《バフォメット》(改訂版)

 第4話、改訂版です。


 初めて読む人は、気にせずお読み下さい。


 もし、あなたが二度目なら、結構中身が変わっていると思いますので、良かったら読んでみて下さい。


 もちろん、話の本筋には変更ありません。


 では、読んでくれるあなたに感謝を……


 ありがとうございます。

「早まったかもしれないな……」


 幼女は後悔の言葉を洩らした。


「さくらももこ、どこでもドア、それにこの姿、コイツはおそらく……」

 幼女は呟き、ゆっくりとかぶりを振る。


 もう遅い、と。


 その体は、まるで血のように赤く染まっている。この人形は二度と動き出すことはないだろう。そして、言葉を話すこともない。幼女はそう思い、再び後悔の念に駆られる。


「おそらくこれを作ったのは……アニメとかが好きな人だ」


 所謂いわゆるオタク、引きこもり……幼女の頭の中に、メガネで小太りの男が思い浮かぶ。


「コレは、外部と接触するためのコミュニケーションツール、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース……」


 幼女の頭の中では、一人の男の物語が展開されていた。


 恋人も友人もなく、家族からも見放された孤独な男……彼が暗い自室でせっせと組み立てた、ウォーズマン型のお喋り人形。

 あの姿にした理由は、強い超人の姿を真似ることで、気弱な自分を隠そうとしたのだろう。引きこもりの男は、外の世界と触れ合うために、長い時間をかけてあの人形を作り上げたのだ。


 幼女の妄想は翼を広げ、今……羽ばたこうとしていた。


「謎は全て解けた……」


 やはり、コミュニケーションを取ろうとしたのだ。この森の中で、お話しできそうな女子を見つけて、ウッキウキで話しかけてきたのだ。


 そして、浮かれていたからモノマネを……


 幼女はそう考え、ふと矛盾に気づく。


「確かに女子ではあるが、私は幼女だ。しかも全裸の……」


 その気づきは光となって、闇の中に隠された真相を暴き出す。


「これは……声かけ事案!」


 幼女は真実に打ちのめされ、地面に膝をついた。


 引きこもりから立ち直ろうとする、ピュアな小太りなど存在しなかったのだ。そこにいたのは、裸の幼女にイタズラしようとする、ただの変態だったのだ。


 ならば、彼の死は必然。「事案・即・斬」、それは、社会が定めた鉄の掟なのだから。


「なんてな……」

 ひとしきり妄想遊びを愉しんだあとで、幼女は思う。


 あれはおそらく、識別だったのだろうと。


「つまり、私の他にもいるのだな」

 幼女は呟き、鍋がわりにしていた亀の甲羅を背中に背負う。


 そして彼女は、樹海の果てを目指して歩き出した。


 カッパのような、亀仙人のような格好で、外の世界に思いを馳せながら……




 幼女が亀仙流の入門者と化していた頃、一匹の魔物が彼女の元へと近づいていた。


山羊魔人ヤギマジン

 人の体に、山羊の頭を持つ魔物。

 典型的な悪魔のような姿で、ほぼバフォメット。

 魔物のなかでは知能が高く、好奇心旺盛で人里での目撃例も多い。人間の持ち物を好み、服や武器、装飾品などを身に付けている者もいるという。



 山羊魔人はキョロキョロと辺りを見回し、耳をすます。彼の目指す方向からは、木の折れる音や岩の砕ける音、そして、何かがぶつかり合うような音が聞こえてくる。


「マジコワイ……」

 山羊魔人は、凶悪な魔物同士の争いを想像して身をすくめる。


「カレラハ、サワルモノミナ、キズツケル」

 争い、殺し、喰らう。魔物達は皆、尖ったナイフのような生き方をしていた。

 

「チガウイキカタモアルノニ……」

 山羊魔人は横長の瞳孔に憂いをにじませ、殺伐とした世界を嘆く。ほとんどの魔物が、戦いや殺戮に喜びを見出す中で、彼はまったく別の価値観を手に入れていた。


 きっかけは、人間が落とした只の布きれ……それを拾った彼は、何の気なしに首に巻いてみた。


 その時、ヤギに電流走る――!


 あの日の衝撃を、彼は一生忘れないだろう。


「コレガ、オシャレ……」

 彼はその時知ったのだ。世界には、こんなに素敵なものがあるということを。


「ユコウ……スベテハ、オシャレノタメダ」

 山羊魔人は怖れの感情を押さえ込むと、目的地を目指して歩き始める。彼には、たとえ危険を冒してでも為さねばならないことがあった。


 あの美しい泉で、今日のコーディネートを確認する。

 オシャレ道を行く者として、それをサボタージュすることは許されないのだ。


 泉の近くまで来たところで、鳴り続けていた衝突音はおさまり、辺りは静けさを取り戻した。山羊魔人は安堵し、その山羊面に笑みを浮かべる。


「ヨシ、イソゴウ。タノシミダナ」

 

 浮かれる彼は、今日のファッションに大きな自信があった。


 大きさの合っていないピチピチのコートは、かろうじて乳首を隠している。

 左右で色の違う靴下は、今流行の「ネガティブ履き」を意識したものだ。

 顔がうっ血するほど締め付けているネックレスも、オシャレに対する意識の高さを表していてグッド。

 そして、忘れてはいけないのはパンツ。これは今回、何も履かないことにした。

 もちろん、履き忘れたわけでも、オシャレを怠けた訳でもない。


 むき出しの下半身で、オスのワイルドさをアピールしようという狙いなのだ。


 まさしくオシャレ上級者のみに許された、冒険的ファッションである。


「フフ、アイツラ、キットオドロクゾ……」

 山羊魔人は、最近知り合ったオシャレフレンズ、四色猿達の驚く顔を想像してほくそ笑む。


「アア! モウ! マチキレナイヨ!」

 一刻も早く、オシャレな自分を確認したい。山羊魔人は興奮状態に陥り、泉に向かって走りだした。


 その時である。


 ギリシャ文字のシータのような目が、地面に転がる幾つもの赤い物体を捉えた。


「アレハ、ヨン……ショクザル」

 それは、ペ・ヨンジュンでも、チョー・ヨンピルでもなかった。

 

 そこには、ヨン・ショクザルが転がっていた。赤一色にその身を染めて。


「イッタイダレガ……」

 想像が、さっきまでの衝突音と重なる。

 あれは、ヨン・ショクザルを殺す音だったのか、山羊魔人はそう考え、自分が危険な場所にいることに気付く。


「ニ、ニゲナイト」

 ファッションチェックに未練を残しつつも、山羊魔人はその場を離れようとする。その時……彼の背後から、死神の囁きのような、冷たい声が響いた。


「ダッフル山羊ゴート……」


 ざわ……


 ヤギに電流走る――!


 異様な気配を感じて後ろを振り返ると、そこには小さな白い生き物が立っていた。


「ニンゲン……?」

 山羊魔人は首を傾げ、その生物を見つめた。


 ヒトの子供らしきソレは、服を着ていなかった。正確には、裸に亀の甲羅だけを背負っていた。それを見た山羊魔人の顔に、侮蔑ぶべつと嘲笑が浮かぶ。


 ああ、なんてダサいんだ……と。


「ハア、ダサイ……ダサスギル。ハダカニコウラ、ハダカニカメ! 裸に亀の甲羅なんて、センスなさ過ぎ、変態じゃあるまいし……」


 そして、コートと靴下だけの変態は、上から目線のファッションチェックを始める。


 今までにないほどの、素晴らしい発音で……


「あのね……ガール。個性的なのはいいけど、人を不快にさせちゃいけないよ。独りよがりのオシャレは罪なの。わかる? それとあなた、そのファッションにちゃんと誇りを持ってる? 例えば今日、死んでしまうとして……その甲羅が最期の衣装で後悔は――あれ?」


 山羊魔人が饒舌に亀少女のファッションにダメ出ししていると、目の前で白い閃光が走り、少女の姿が忽然と消えた。


「いったいドン――コニシッ!」


 突然の激痛と共に、山羊魔人は弾け飛んだ。


「イタイ……タスケテ、オス……ギィィィ!」

 気がつけば、山羊魔人は亀娘に踏みつけられていた。彼を見下ろす青い瞳からは、強い怒りと殺意が感じられる。


 何故だ……痛みと恐怖の中、山羊魔人は思った。親切にもファッションアドバイスをした自分に、何故こんな酷いことをするのかと。


「コレヲ……アゲルカラユルシ――」

 靴下に手を伸ばし、そこまで言いかけたところで、山羊魔人は口をつぐんだ。


 そして彼は、覚悟の笑みを浮かべて言い放つ。


 オシャレ道とは、死ぬことと見つけたり、と。


「ククク……」

 ダサい子供は、倒れた山羊魔人の上にのしかかると不穏な笑みを見せる。小さい体に見合わぬ剛力に、山羊魔人はまったく動けない。


「ふん! やはり、どこから見てもダサいな」

 震える声で言った言葉は、彼の精一杯の強がりだった。


「私は、自分のファッションに誇りをもっている!」

 叫ぶ山羊魔人の眼前に、ダサい子供の小さい拳が迫る。


「故に! このオシャレスタイルで死ぬことに後悔はない!」


 言い終わると同時に、山羊魔人の顔面に白いおててがめり込んだ。


 視界が赤く染まり、薄れていく意識の中で……彼は思った。 


 たとえナウい靴下をあげたとしても、このダサい子供に価値は分かるまい。ならば、パーフェクトなオシャレスタイルのまま死ぬべきだ。


「我が……オシャレ…人生に……一片の……悔いなし……」


 その言葉を最期に、山羊魔人の意識は途切れた。




「きたないぜ、ヌルリと……」

 幼女は、血塗れの手をヤギの靴下で拭った。


 コートを脱がされ、靴下を手ぬぐい代わりにされたヤギ男は、片方の靴下だけを履いた状態で放置されている。


「ぐあ、手がクサイ!」

 当然の結果に幼女は憤慨するが、せっかく手に入れた服を血で汚す訳にもいかないと、臭い靴下で念入りにおててを拭き続ける。


「しかし、なんだったんだコイツは」

 幼女はヤギの格好に衝撃を覚えていた。


「あまりにも変態的過ぎて、つい殺してしまったが……」


 ピッチピチのコートを着た、ちん○丸出しのヤギ男……ウォーズマンなど比較にならない案件である。


「まあ、いいや。それより、服だ、コートだ!」

 幼女はウキウキでヤギ男のコートを羽織る。


 色は暗めのネイビー、大きめのフードに、生地は厚手のメルトン生地、フロントにはトグル。名前の由来はベルギーの地方名らしい。

 

「ダッフルコート……」

 幼女の声は感動に満ちていた。


「フフ、悪くない」

 幼女はご機嫌な様子でポーズを決める。ダボダボのコートを着て微笑む姿は何とも言えず可愛らしい。


「よし、貴様にはこれをやろう……礼はいいぞ、交換だからな」


 そう言うと幼女は、ヤギの股間に亀の甲羅を被せた。


「ククク、まるで白痴だな……ヤギさん」


 幼女が笑う。


 その日、彼女は服を手に入れた。


 色は暗めのネイビー、大きめのフードに、生地は厚手のメルトン生地、フロントにはトグル。


 その、ダッフルコートは血の匂いがした。


 ヤギに電流走る――!


 これをやりたくて、山羊の魔物にしました。

 英語でゴートなのでコートを着せました。

 コートを着るということは、オシャレだということです。


 そして、私の中のオシャレな人はああいうイメージなのです。


 それと、ヨン・ショクザルの下りは、魔物がヨンジュンやヨンピルを知ってたらおかしい、とか言わないでください。


 だって、悪ふざけだもん。



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