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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
34/47

第34話 感謝祭《フェスティバル》

久しぶりの更新となりました。


年度末で大変忙しかったのです。


四月になれば落ち着きますので、ペースも元に戻ると思います。


今回の話は、前編、中編、後編で雰囲気が違う感じです。


随分と間があきましたが、それでも読んでくれるあなたに、心から感謝を……


ありがとうございます。

「おい、あの家を見てみろ」


「道もえらく綺麗じゃないか」

 キール村の住民達は、驚きの声を上げている。


 ハーンズ北部の小村群、その中でも魔物の生息域に近いクローナ村は、どこよりも貧しかった。


 しかし、今のクローナにその頃の面影はない。


 ハルートと獣人達がクローナ村に住むようになって数ヶ月、かつての廃村は、劇的なビフォーアフターを遂げていた。


 住居は美しく改築され、村の中央を走る道には石畳が敷かれている。


 これも、クローナの妖精の仕業か……

 祭りの会場へと向かう道中、マテオは目の前の光景に溜息を漏らした。


 立ち並ぶ家々はみな立派で、隙間風の吹くようなものは一つもない。


 小さな広場には、木材を組み合わせて作った遊具のようなものが置いてあり、その周りには、子供達の持ち物らしい木製の剣や盾が転がっている。


「まるで知らない村だ」

 その景色を眺めながら、マテオは小さく呟く。


 彼の記憶にあるクローナ村は、暗く寂しい村だった。

 魔物に怯え、飢えに怯え、未来を見る余裕などない、そんな村だったはずだ。


 マテオは悔しいような、恥ずかしいような気持ちを感じていた。


 彼の父親でもあるキールの長は、今日ここには来ていない。

 獣人などと親しくするつもりはない、と招待に応じなかったのだ。


 この村は、これからも発展し続けるのだろう……


 聞こえ始めた歓声に足を速めつつ、マテオは故郷の村を思う。

 暗く寂しい村だ。魔物に怯え、飢えに怯え……未来を思う余裕はない。


 キールは変わらねばならない……


 その為に、父の反対を押し切ってまでやってきたのだ。


 石畳の道の先に、広場の入り口が見えてきた。


「やっと会えるな」

「やっと会えるわ」


 呟くマテオの声に、若い女の声が重なった。


 フードを被ったその少女と並んで、マテオは入り口のアーチをくぐっていった。



 綺麗に飾りつけられたアーチには、『ようこそクローナ村へ』という文字が書かれている。


 シャロンはそれをくぐると、周囲をぐるりと見渡した。


 広場には、すでに多くの人が集まっていた。


 催し物でもするのだろうか、奥の方には大きなステージが作られている。

 広場を縁取るように並べられた屋台では、獣人達が大きな声で客引きをしていて、店の前には客の列が出来始めていた。


 祭り独特の浮かれた雰囲気が辺りを包み、屋台からは芳しい香りが漂ってくる。

 シャロンは「ふう」と溜息をつくと、肩から提げたバックの中身を手で探った。

 彼女の指先に、聖者のメダルの感触が伝わってくる。


 これは重要な任務なのだ……

 シャロンは目を閉じ、心の中で女神に祈る。

 指先から感じるメダルの冷たさは、課せられた使命の重さを彼女に思い出させてくれた。


 広場では獣人の子供達が、飲み物やお菓子を配り歩いている。

 トレイの上に飲み物を乗せて、クルクルと動き回る姿はとても可愛らしい。


「お酒とジュース、どっちにしますか、どちらも無料ですよ」

 駆け寄ってきた猫耳の少女が、シャロンに尋ねる。


「え……タダなの」

 しかし、今は任務中だ……猫娘の誘惑にシャロンの心が揺らぐ。


 そして、シャロンは思案の末……酒を選んだ。


 お酒をチビチビ飲みながら歩いていると、シャロンの目に奇妙な一団が映った。

 皆、包帯を巻いているところを見ると、怪我人だろうか。

 祭りの賑やかさに似合わない悲愴な表情を浮かべて、広場の端に集まっている。

 

「少し気になるけど……」

 屋台の香りほどではないな。


 聖女は、酒に合う食べ物以外には興味を無くしていた。


「何これ! 滅茶苦茶ウマイ!」


 何を食べようか、とフラフラしていたシャロンの耳に、若者の大きな声が響く。


 その店の看板には、デスワームボールと書いてあった。


「デスワーム……人食いミミズか、興味深いわね」

 ゲテモノもいけるらしい聖女様が、たこ焼きモドキに興味を示す。


 デスワームボールは、タコ焼きのタコの代わりに人食いミミズを入れたものである。

 調理用のたこ焼き器は、ハルートが作ったものだ。


「これを一つと、あとそっちのも下さい!」

 シャロンは、屋台の獣人に大声で注文すると、肩から提げたバックの中身を手で探る。


「チッ……」

 メダルが邪魔で財布が取り出せない。


 デカすぎる……あと、デザインがダサい。

 シャロンは、心の中で聖者のメダルを罵倒する。

 指先から感じる感触にイライラしながら、聖女はソレをバックの端に押し込んだ。


 マッスル焼きそばに人面リンゴ飴、そしてデスワームボール……シャロンは、魔物素材で作られたお祭り料理を満喫していた。


「どれも、珍しくて美味しい……」

 屋台の獣人は「全部ハルート様が考えた」と言っていた。

 破壊の聖女は、料理も得意なのか……人面リンゴ飴をペロペロ舐めつつ、シャロンはステージへと向かう。


 どうせなら近くでみたい……

 あの舞台が飾りということはないだろう。

 広場にはいないようだし、挨拶とかするかもしれない。


 幸い、他の来客達は屋台に群がっていて、ステージの周りにはほとんど人がいなかった。


 シャロンは、ステージの正面に座り込み、彼女の事を考える。


 聖女アレクシア並の力を持つ少女、子供という話だから、十代前半くらいだろうか……盗賊団を壊滅させるほどに強くて、料理上手、獣人達にも随分と慕われてるようだ。


 でも、彼女は多分、自分を聖女だとは思っていないだろう。


 シャロンは俯き、小さく溜息をついた。


 獣人と暮らしているのもそうだし、何よりこの広場には、本来あるべきものが見当たらない。


「女神像……」

 これだけの規模のお祭りなら、なければおかしいのだ。


 マルティナは、彼女こそが聖者を導く存在だ、と言ったそうだけれど、獣人と暮らし、女神に祈らないものを聖者と呼べるのだろうか……それ以前に、本当に彼女は聖者の力、女神の加護を持っているのだろうか。


 彼女に会えば分かるのかな……


 シャロンが顔を上げると同時に、ステージの裏側から誰かが出てきてキョロキョロと辺りを見回している。


「あ、エルフ……ってあの人! カサンドラ!」

 間違いない、勇者と一緒にいた死んだ魚みたいな目をしたエルフだ。


「なんで、こんなところに……」


 混乱するシャロンをよそに、ステージに上がったカサンドラは、出来る限りの大声で、来客達に呼びかける。


「みなさーん! ステージのところに集まってくださーい!」


 広い会場で騒いでいる来客達にはまったく聞こえていないのだが、ステージの上であたふたしている美女というのは、やはり目を引くのだろう、来客達はゾロゾロとステージの周りに集まってきた。


「これより、第一回クローナ村大感謝祭を執り行います! まずは主催者である、クローナ村村長、ハルートちゃんの挨拶です!」


 カサンドラが祭りの始まりを告げ、ハルートちゃんが姿を現す。


「レディースアンドジェントルメン! アーンドおとっつぁん、おっかさん! 我が輩が偉大なる竜の末裔ハルートちゃんである!」


 幼女のドラゴンボイスによる自己紹介が、広場中に響き渡る。


 その凄まじい大音声に大気は揺れ、集まった辺境民達は、ト○ー谷とデーモン○暮の幻影を幼女の後ろに見た。


「んー、景気良く開会の挨拶を済ませたいところだが……なにやら、辛気臭いのがいるなあ」

 幼女は舞台俳優のような口振りで、怪我人の集まりを指差す。


「お前らちょっと前の方に……出てこいや!」

 幼女の高田っぽい脅迫に、怪我人達がゾロゾロと前にでてくる。


 幼女の迫力が凄いのか、辺境民達の意志が薄弱なのか、不安になるほど言いなりである。


「今日は祭りだからな! 特別にリクエストに応えてやるぞ! おい、貴様!」

 怪我人の一人を幼女が指差し、指名された男はビクビクッとした。


「派手なのと簡単なの、あと聖女っぽいの、どれが良い?」


「じゃあ……3番の聖女っぽいのでお願いします!」

 案外、図々しい男は、ウキウキしながら幼女の選択肢に答える。


「ウム、よかろう……では、ちょっと失礼しますね」

 そう言うと、幼女はステージの裏に引っ込み、十秒ほどたって再び姿を現した。


「こんにチワワ、子羊達よ……」

 幼女の衣装が法被はっぴから、白くてヒラヒラしたドレスに変わっている。

 あと、口調もちょっと変わっているようだ。


 獣人達は、商売をほったらかしにして、可愛くなった幼女に声援を送っている。


「では……いきます」

 幼女は呟き、静かに目を閉じた。

 眩い閃光と共に、幼女の背中に光りの翼が現れる。


 そして……


 幼女のアメージン○グレイスが広場に響き渡った。




あまり長くなるのもどうかと思い、中途半端な切り方をしてしまいました。


今日のうちに、もう1話くらい書ければなあと思っています。


それでは、ありがとうございました。

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