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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
33/47

第33話 来訪者《ビジター》

一週間で体重が三キロ増えました。


そして今日、一週間ぶりの更新です。


つまり、前話を更新した私は、今より三キロ痩せていた訳です。


いやな話ですね。


今回、更新が遅かった分、内容はいつもより濃密……ということはなく、あまり進展のない感じに仕上がっております。


それでも読んでくれるあなたは、とても素敵な人です。


そんな素敵なあなたに、今日も心から感謝を……


ありがとうございます。


 クローナ村の広場に作られた木造のステージ上で、幼女は最後のリハーサルを行っていた。


 「カサンドラ、そっちの鏡の角度を少し上に向けてくれ」

 幼女がエルフの少女、カサンドラに指示を出す。


 この世界には、電球どころかガス灯さえ存在していない。主に光源として利用されているのは、蝋燭ろうそく松明たいまつ、油を用いたランプなどである。


 当然、舞台照明用のライトなどは存在せず、明るさを増す方法もガラスのシャンデリアや鏡の反射を利用するくらいしかない。


 ハルートが設計したこのステージも、白熱電球やLEDライトを使っているわけではないのだが……


「ウヒィッ! 眩しいっ! 目がっ! 目があああ!」

 仕事をさぼってリハーサルをのぞいていたハーマンの悲鳴が広場に響いた。


 獣人の爺は、奇声をあげながら広場に置かれたタルに向かって突っ込んでいく。

 

「あれ、ちょっと強すぎたかな?」


 幼女は自ら光を放ち、輝いていた……まるで後光のような光が、ハーマンの眼球と煩悩を焼き尽くす。


「ギィィィィ! 目が痛い! 何か臭い! ハルート様、助けてぇぇ!」

 樽の中身を頭から被ったハーマンが、幼女に助けを求めて近づいてくる。


 樽の中身は、出店でみせで使う調理用の油である。


「…………」


 幼女は無言のまま、ステージ横の篝火かがりびから木の棒に火種ひだねを移すと……そっとハーマンに点火した。


 ハーマンは燃え上がり、広場に巨大な火柱が立ちあがる。


 春の日の幼女……ほんの出来心、ちょっとした火遊びであった。




 次の日の朝……広場に集まった獣人達は、幼女の言葉を待っていた。


 獣人達の前方、ステージの上には白い幼女が立っている。


 色は明るいブルー、黒く縁取られた襟に、裾には市松模様、背中には赤い祭りの一文字。

 

 法被はっぴである。


 法被はっぴ姿の幼女がそこにいた。


「皆の衆、おはヨーグルト!」


「おはヨーグルト! ハルート様!」

 幼女の挨拶に、獣人達が声を揃えて応える。相変わらず、幼女への忠誠度はMAXのようだ。


「本日は祭りである!」

 幼女の言葉に遠吠えのような歓声があがり、獣人達が騒ぎ出す。


「皆、静かにしなさい! ハルート様のお話の途中ですよ!」

 サラが学級委員長っぽい感じで騒ぎを治めようとするが、テンションのあがった獣人達にはまるで効果が無い。

 

 幼女はムッとしているサラに笑顔を向けると、ゆっくり右腕をあげる。その瞬間……獣人達のざわつきはスッとおさまった。

 まるで、飼い主と従順な飼い犬のようだ。


「いいか者ども、今日の祭りには、ラッツ村をはじめキール村やコルナ村の連中もやってくる。今回我々は、彼らを“おもてなし”せねばならない」


「ハルート様……俺達、お酒飲んじゃダメなの?」

 ウッドが絶望の表情で尋ねる。


「心配するな、祭りの後の打ち上げでは好きなだけ飲んでいい。酒蔵を空にしても構わん」

 幼女の言葉に、安堵と歓喜の声があがる。

 

「ただし、客がいるうちは飲んじゃダメだぞ! 出店の当番が無い時間は自由にしていいが、お酒は我慢しなさい!」


「はーい!」

 雰囲気は幼稚園児と先生のようだが、内容はアルコールについての話である。


「うむ、良い返事だ。いいか……今日の祭りは、近隣の村との親睦を深めることが最大の目的だ。以前から言っているが、近いうちにレナードとの戦争が始まる。そうなれば、戦士達は全員戦場に向かい、この村には女、子供や老人……戦えない者ばかりが残ることになる」


 獣人達は真剣な表情で幼女を見つめている。戦えない者達を残して、ハルートや戦士達が村を離れる……彼らの脳裏にカロッツァでの悪夢のような日々が浮かぶ。


「万が一の避難先、食料の支援、近隣の村との友好関係ができていれば、非常時に彼らを頼ることができる。後ろが気になっては、戦いにも身が入らんからな」


「ハルート様、ラッツの連中と同じような関係になればいいんだよな」

 ガラードの問いに幼女は頷く。


「そうだ、いくら我らが領主直属の部隊といっても、今の状況ではラッツ以外からの協力は望めん。他の村の連中は、この村を魔界のように怖れているからな」


「やはり愛想良くしたほうがいいのでしょうか?」

 サラが不安そうな表情で幼女に尋ねる。


「いや、普段通りで構わん、媚を売る必要はない」

 そう言うと、幼女は獣人達の顔を見渡した。皆それぞれに不安げな表情を浮かべている。


 こういうところは意外と繊細なのだな……幼女は獣人達を見て微笑む。


「安心しろ、私の企画は完璧だ。この祭りが終わる頃には『どうか仲良くして下さい、お願いします』と奴らの方から頭を下げてくるだろう。その辺の村人ごとき、このハルート様にかかればあっという間にメロメロのデレデレだ」


「さすがハルート様……しゅごい」

 幼女神の邪神のような言葉に、獣人達はメロメロのデレデレだ。


「いいか、ベイビー達、このフェスティバルの成功はすでに約束されている。つまり、へのつっぱりはいらんのだ!」


「おお、言葉の意味はよく分からんが、とにかくスゴイ自信だ!」

 幼女の自信満々の叫びに獣人達から大きな歓声があがる。

 

「よし! では準備にかかるぞ! 我がクローナ村の文化力、人間どもに見せつけてやれ!」 


「はーい!」


 イ○ラちゃんのような返事と共に獣人達は動き出す……そして、祭りが始まる。



「ギルバートさん本当に大丈夫ですか? いきなり襲われたりとかしませんよね……」

 気の弱そうな男がラッツ村の村長ギルバートに話しかける。


「しつこいぞエリック、うちの連中の顔を見てみろ、怯えている奴など一人もおらんだろうが」


「確かに……怯えるどころか楽しそうだ」

 コルナ村の村長エリックはラッツ村の住民たちを見て呟く。


「いいか、クローナとの縁はなんとしても作っておけ、あの娘が味方なら俺達の村は何があっても安泰だ」


「なんですかそれ、なんか怖いんですけど」


「クローナの妖精……白い少女とは仲良くしろってことだ。それとお前、怪我人はちゃんと連れて来てるな」


「はい、馬車に乗せてます。その、本当に……治るんですか? 私の身内も連れて来てるんですが」


「多分な……おい、見えてきたぞ」

 ギルバートがクローナ村の入り口を指さす。


「あれが、新しいクローナ、獣人達の住む村……」


 まるで地獄の門でもくぐる気分だ……エリックは太腿に力を込め、足の震えを抑え込むと、ギルバートの後ろに続いてクローナ村へと入っていった。

 


 同じ頃、キール村の住民達に紛れて、一人の少女がクローナ村へと向かっていた。

 深めのフードを被り、顔を隠した少女の胸には白銀のメダルが光っている。


「もうすぐ会える……」

 シャロンは女神の紋章が刻まれたメダルを握りしめると、まだ見ぬ彼女に思いを馳せる。


 聖女マルティナの暴走以来、多くの聖者が聖女ハルートの行方を捜していた。彼女を担ぎ出し、現体制に取って代わろうとする者、人知れず彼女を消し去ろうとする者、それぞれに思惑はあるのだろうが、聖者達は顔も知らず、実在するかも分からないその少女を求めていた。


 そんな折、シャロンにも教会塔……アレクシアからハルート捜索の命が下る。


 破壊の聖女の目撃例は、レナード領とデュラン領に集中していたため、ほとんどの者がその二領を中心に捜索を行っていた。アレクシアもその二領にはすでに捜索隊を派遣しており、シャロンは隣接する残りの領地、ハーンズ領の捜索を行うことになった。


 「教会の上層部に聖者の分裂が知られないよう、行動は秘密裏に行うこと」という教会塔からの指示により、貴族や大商人、教会への聞き取りが出来ないシャロンは、小さな町や村をまわって聞き込みを続けていた。


 そして、シャロンはある村で、聖女らしき人物の情報を手に入れる。

 

 ハーンズ領の北の地に、傷ついた村人を癒す少女がいる。彼女は辺境の村で、獣人達と一緒に暮らしているらしい。


 随分と胡散うさん臭い話ではあったが、他に当てもないシャロンは、その情報を頼りに彼女の足取りを追った。


 そして彼女はハーンズの中心都市、ディルハムの街で、ある少女の噂を耳にする。

 獣人やエルフを連れて街を訪れる、白く美しい少女の噂を……


 当たりを引いたかもしれない……


 例の人物と一致するし、作り話にしては目撃者が多すぎる。


 それからシャロンは、その少女の情報を集めはじめた。


 領主の隠し子、どこかの国の王族、エルフの子供、リーリィの妖精、嘘くさい話ばかりの中で、彼女は一人の商人から決定的な情報を得る。


「その人なら知っています。クローナ村のハルート村長ですよ」


 ピートという商人の言葉にシャロンは歓喜し、同時に驚愕した。


「え? 村長? 子供……じゃないの?」

 まさか、別人……


「見た目は子供ですよ、すごく可愛らしい女の子です。中身は『アラクラの魔人』みたいな人ですけど」


「魔人? え……と、その村長さんに会うことはできませんか?」


「私には何とも言えませんね。村長を怒らせたくないので、紹介も難しいです」


「そう……残念」

 まあいいや、場所が分かったのだから任務は終了……後は報告だけでいいか。


 シャロンはピートにお礼を告げると、報告書を書くために宿へと向かう。


「あっ! ちょっと待って下さい。そういえばもうすぐお祭りをやるって言ってました。他の村の人も呼ぶそうですから、あなたも村に入れるかもしれませんよ」


 もしこの時、彼が呼び止めなければ、彼女はあの幼女と出会う事はなかったのだろう。


「お祭り……?」


 そして、彼女がアレと出会うこともなかったのだ。


 聖女シャロン、後に6弦の魔女と呼ばれる少女……彼女の指はまだ、プニプニである。




先日、インターネッツでパーソナルコンピュータを購入しました。


今日の夕方くらいに届く予定です。


これからは、ソイツで書くことになるでしょう。


フヘヘ、楽しみだよ。

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